□ H11年04月期 B-05  Code:[HJ0601] : CM形電力計の動作原理と特徴、整合測定の方法
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09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1104B05 Counter
無線工学 > 1アマ > H11年04月期 > B-05
B-05 次の記述は、CM形電力計による電力の測定について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。
 CM形電力計は、送信機と[ア]又はアンテナとの間に挿入して電力の測定を行なうもので、容量結合と[イ]結合を利用して、フィーダーの電流(又は電圧)に[ウ]する成分の和と[エ]から進行波電力と[オ]電力を求めるものである。
受信機 擬似負荷 コンデンサ 誘導 比例
反比例 ふく射波 10 反射波

 CM形電力計、というのは、CM形方向性結合器という(便利な)素子を応用した電力計で、進行波と反射波を分離して計測できるため、SWR計を組むことができるものです。まずはその「方向性結合器」というのは何なのか、という所から入って行きます。

[1]方向性結合器とは何か

 VSWRを測定する時、送信機からアンテナに向かう進行波と、不整合のためにアンテナから戻ってくる反射波同時に測定しなければなりません。普通、商用電源の電線にテスターを当てても、進んで行く電力と戻ってくる電力を別々に測定できる、なんてことはありませんが、無線の周波数あたりになってくると、「ある方法」を使えば分離できるようになります。
Fig.HJ0601_a 方向性結合器の動作原理
Fig.HJ0601_a
方向性結合器の動作原理
 伝送線路中に挿入して、進行波と反射波にそれぞれ比例した出力を得る素子を、方向性結合器と言います
 Fig.HJ0601_aにその概念図を示します。上に書いた「ある方法」というのが、この方向性結合器を使った方法です。
 進行波は、ポート1からポート2に向かって流れます。反射波はその逆です。進行波電力の一部がポート4に現れ反射波電力の一部がポート3に現れます。
 伝送路1と伝送路2の間には、何らかの「結合部」があって、進行波や反射波の一部をそれぞれ取出す働きをします。
 このような素子が存在すれば、進行波電力Pfと反射波電力PrからVSWR(ρとする)から、
 
でVSWRが求められます。
 ところで「そんな都合のいい素子、あるのか?」とお思いになると思いますが、それはこの後に書きます。

[2]CM形方向性結合器の動作原理

 CM形方向性結合器は、HFからVHF程度までの広い周波数範囲で使われている方向性結合器です。CMとは、容量性結合のCと、誘導性結合(相互インダクタンス)のMです。CだMだといっても実際の動作原理を調べなければ良く分かりませんから、検出の原理的な所から話を進めましょう。
 Fig.HJ0601_bのように、主線路と言われるメインの電力が流れる伝送線路と、そこに容量性結合(C結合)と誘導性結合(M結合)している副線路があります。ここでは進行波がポート1に入り、ポート2に出て行くものとします。主線路と副線路がCとMの双方で結合しているのがポイントです。
 副線路にC結合で誘導した電圧は、線路のインピーダンスに応じた電流となって、ポート3方向に流れるものとポート4方向に流れるものに分かれます。
 一方、M結合で誘導した電流は、ポート4からポート3方向(回路によってはその逆)の、片方向にのみ流れます。
Fig.HJ0601_b CM形方向性結合器
Fig.HJ0601_b
CM形方向性結合器
 通常の使い方では、ポート3もポート4も、副線路の特性インピーダンスで整合を取ります。これらのポートで反射が起こらないようにするためです。Fig.HJ0601_bのように、ポート3では、C成分とM成分が足し合わされ、ポート4ではC成分とM成分の差分が出力されます。結合の調整などにより、CとMの大きさが等しくなるようにしてやれば、ポート4は減算なので、出力はゼロになります。
 このような状態の下で、ポート3に電力計、ポート4に整合終端を接続してやれば、電力計には進行波電力に比例した電力が得られます。
 反射波を測定する時には、逆にポート4に電力計、ポート3に整合終端を切替えてやれば測ることができます。両方同時に測れれば、リアルタイムで(1)式に示したVSWRが測定できます(これを使ったのがクロスメータ)。
 HFからVHFで使われているCM形方向性結合器は、結合にコンデンサやコイル(トランス)を使ったものになります。以下、もう少し細かく見て行きます。
Fig.HJ0601_c VHF程度までの方向性結合器
Fig.HJ0601_c
VHF程度までの方向性結合器
 Fig.0601_cの左にディスクリート部品(集中定数)で組んだCM形方向性結合器の原理図、右に実際の応用を示します。
 原理図で、進行波は左から右に、反射波は右から左に流れるものとします。こうすると、図の真ん中にあるトランスに、進行波に比例した電流TmF、反射波に比例した電流TmRがそれぞれ重なって生じます。また、トランスの両側にあるコンデンサからはそれぞれ電流Tc1(負荷側)と電流Tc2(送信機側)が流れます。
 ここで、簡単のため、VSWR=1で反射波がない(ImR=0)とすると、進行波のみに着目(紫色の矢印)して、
 
 つまり、Tc2=ImFとなるように部品定数を選べば、(3)式はゼロになるので、副線路の送信機側の端子には進行波(電力の平方根)に比例した電圧が出てくるとともに、副線路の負荷側の端子には電圧が出ません。
 また、この回路は進行波に対しても反射波に対しても対称の形をしているので、ここまで書いたことは、反射波にも成り立っています。すなわち、この図でいうと進行波(電力の平方根)に比例した電圧が副線路の送信機側に反射波(電力の平方根)に比例した電圧が副線路の負荷側に、それぞれ出てくることになります。
 これを実際の回路に応用したのがFig.HJ0601_c右の回路で、トロイダルコアに巻いたトランスの両側にそれぞれ進行波の検波回路、反射波の検波回路を設け、電流計につなげば、クロスメータの出来上がり、というわけです。

[3]導波管の方向性結合器

 上記で書いたものは、集中定数の回路ですからマイクロ波では通常、使えません。マイクロ波でVSWRを測定するには、以下のような方向性結合器を使用します(マイクロ波帯では、この他にも様々な方向性結合器があります)。
 Fig.HJ0601_dが導波管を用いた方向性結合器です。構造は簡単で、ポートAが送信機側でポートBが負荷側です。これにもう一本の導波管が「くっついて」おり、側面に2箇所穴が開いています。この穴の間隔は、管内波長の1/4となるようになっています。
 このように作ると、ポートDにのみ進行波に比例した電力が現れ、ポートCには進行波は出てきません。
 反射波がある場合は、ポートCにのみ反射波に比例した電力が現れ、ポートDには反射波は何も出てきません。
Fig.HJ0601_d マイクロ波用の方向性結合器
Fig.HJ0601_d
マイクロ波用の方向性結合器
 ここでもまた、進行波に着目してみます。
 ポートAから2つの穴を抜けてポートDに至る2本の経路1と経路2は、その経路差がありません。経路差がありませんから弱めあうこともなく、ポートDに到達します。
 ポートAから2つの穴を抜けてポートCに至る2本の経路3と経路4は、経路2の方がUターンしている部分で、片道λ/4の2倍のλ/2の経路差を持ちます。経路差がλ/2であるということは、半周期ずれた正弦波の合成になるので、経路3と経路4の電波の強さが同じであれば、打ち消しあって何も出てこないことになります。
 このようにして、マイクロ波でも方向性結合器を構成することができて、VSWRが計測できます。しかしながら、この方法は、穴の間隔が関内波長の1/4に合う周波数でしか、方向性結合器として動作しないので、狭帯域です。マイクロ波では、他にも広帯域で動作する方向性結合器が、開発されています。

それでは、解答に移ります。
 …CM形電力計は送信機とアンテナ又は2擬似負荷の間に挿入します
 …CM形電力計は、静電結合と4誘導結合を利用したものです
 …フィーダーの電流又は電圧に5比例する成分を利用します
 …進行波・反射波の起電力の方向と電圧・電流の和と8差を利用します
 …CM形電力計は、進行波と10反射波の電力を同時に測定できます
となります。