□ H12年12月期 B-05  Code:[HI0401] : 山岳回折の特性(山がない時と比べた電界強度、伝搬路、フェージング)
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1212B05 Counter
無線工学 > 1アマ > H12年12月期 > B-05
B-05 次の記述は、VHF帯以上の電波伝搬における、山岳回折について述べたものである。このうち正しいものを1、誤っているものを2として解答せよ。
山岳回折波は、フェージングが大きいという特徴がある。
送・受信点と山頂との間の伝搬は、ほぼ自由空間伝搬と見なすことができる。
山岳回折による伝搬によって受信される電波の電界強度と山がない場合に受信される電波の電界強度の比を、山岳回折利得という。
山岳回折利得は、送・受信点の中間に孤立した一つの山がある場合よりも、電波通路をさえぎる山が複数ある場合の方が大きい。
山岳回折による受信波の電界強度は、球面大地を想定した見通し外伝搬で得られる値よりもかなり高くなる場合がある。

 この問題で出てくる「回折」という言葉は、電波の波としての基本的な性質ですが、これを復習してから、問題にかかります。

[1]波の回折とは何か?

 海の波も電波も共通して「波動」ですから、いくつかの同じ性質を持っています。例えば、ここに出てくる「回折」という現象です。この現象は、海で防波堤が沖に向かって突き出ている場合でも、波から陰になるはずの防波堤の内側で、波が観測される、というものです。
 電波で言えば、建物で遮られて受信できないはずの場所でも、弱いながら電界が存在する現象がこれに当たります。では、この現象はどのように説明できるのでしょうか?
 Fig.HI0401_aの右上を見て下さい。直進してきた波は、ナイフエッジに当たりますが、ナイフエッジの頭を新たな点波源として球面波が広がるため、エッジの影にも電波が到達します。この現象を「回折」といい、回折によって生じた波を「回折波といいます。回折波は波長に比べてナイフエッジが細いほど強くなり、より障害物に近い影にまで回り込むようになります。

[2]山の頂がナイフエッジだと考えれば、これが山岳回折

 この回折現象は、防波堤(海の波の場合)や建物など人工物だけでなく、山岳でも起こります。これを図に示したのがFig.HI0401_aの下半分です。
Fig.HI0401_a 波の回折と山岳回折
Fig.HI0401_a
波の回折と山岳回折
 このような回折現象を「山岳回折」といい、山越えで通信が可能になります。山がない場合に比べて電界が強くなる割合を、山岳回折利得といいます。厳密には山はナイフエッジではありませんが、上に書いたように山頂が波長に比べて狭ければよく、お椀を伏せたようではダメで、槍のように鋭くなっていると、回折波が強くなります
 送信点からも受信点からも山頂が見通せる場合、送信点−山頂−受信点の間の経路はほとんど自由空間伝搬とみなせます。正確には大地反射波も考慮に入れる必要がありますが、これは陸技の問題になります。
 また、地球は丸いので、途中に障害物がなくても、その丸みで送信点から受信点を見通せない場合があります。このような場合、地球の丸みで回折が起こり、通信できることがありますが、空気の屈折率の揺らぎなどによって大きく電界強度が変化します。
 ところが、途中に山があると、山岳回折が使えて、これは自由空間伝搬と見なせる2区間の経路ですので、安定して(フェージングの少ない)通信が可能になります。

[3]山がたくさんあったら?

 もし、山が経路上に幾重にも連なっていたら、回折は起こりますが、一つ一つの回折で、自由空間よりは減衰が大きくなってしまう(Fig.HI0401_a左上)ので、山が一つの時より電波が強くなることはありません

それでは、解答に移ります。
 …山岳回折はフェージングが小さいので2誤った記述です
 …山頂を挟んだ2経路は自由空間伝搬と見なせるので1正しい記述です
 …これは山岳回折利得の1正しい記述です
 …山が複数あっても回折波が弱まるだけなので、2誤った記述です
 …大地が球面なために起こる回折より強いので、1正しい記述です
となります。