□ H14年12月期 A-13  Code:[HE0601] : パルス変調方式に用いるアナログ信号のデジタル化方式の説明
インデックス
検索サイトから来た方は…
無線工学の基礎 トップ

以下をクリックすると、元のページが行き先に飛び、このウインドウは閉じます

 ■ 無線工学を学ぶ
 (1) 無線工学の基礎 
 年度別出題一覧
  H11年 4月期,8月期,12月期
  H12年 4月期,8月期,12月期
  H13年 4月期,8月期,12月期
  H14年 4月期,8月期,12月期
  H15年 4月期,8月期,12月期
  H16年 4月期,8月期,12月期
  H17年 4月期,8月期,12月期
  H18年 4月期,8月期,12月期
  H19年 4月期,8月期,12月期
  H20年 4月期,8月期,12月期
  H21年 4月期,8月期,12月期
  H22年 4月期,8月期,12月期
  H23年 4月期,8月期,12月期
  H24年 4月期,8月期,12月期
  H25年 4月期,8月期,12月期
  H26年 4月期,8月期,12月期
  H27年 4月期,8月期,12月期
  H28年 4月期,8月期,12月期
  H29年 4月期,8月期,12月期
  H30年 4月期,8月期,12月期
  R01年 4月期,8月期,12月期
  R02年 4月期,9月期,12月期
  R03年 4月期,9月期,12月期
  R04年 4月期,8月期,12月期
 分野別出題一覧
  A 電気物理, B 電気回路
  C 能動素子, D 電子回路
  E 送信機, F 受信機
  G 電源, H アンテナ&給電線
  I 電波伝搬, J 計測

 ■ サイトポリシー
 ■ サイトマップ[1ama]
 ■ リンクと資料

 ■ メールは下記まで



更新履歴
2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1412A13 Counter
無線工学 > 1アマ > H14年12月期 > A-13
A-13 次の記述は、パルス変調方式の原理について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
(1) 音声などのアナログ信号を標本化し、振幅を調整したあと、2進数などを用いて符号化パルス列によるデジタル信号に変換する方式を、[A]方式という。
(2) この方式では、元のアナログ信号に含まれる最高周波数の[B]の周波数で標本化を行い、得られた標本値をある振幅間隔で[C]して、2進数などを用いて符号化された一定振幅パルス列によるデジタル信号に変換する。

PCM 2倍以上 量子化
PCM 2倍以上 パルス化
PWM 2倍以上 量子化
PWM 1/2以下 パルス化
PWM 1/2以下 量子化

 アナログ信号をデジタル化し、伝送・記憶・処理する方式は、昔からあるCDをはじめ、いまやデジカメ、携帯電話、光ファイバに至るまで、ほとんどの電気信号で用いられています。この問題では、その最も基礎の部分である、アナログ信号をデジタル化する部分について問われています。アマチュア無線は、どちらかというとずっとアナログな世界で運用されてきました。そのため、デジタル・パルスと聞くといいイメージをお持ちでない方も居られるでしょうが、通信方式として狭帯域化や高速化が図れることで注目されているわけですから、先進技術の一端として知っておくのも悪くはないのではないでしょうか?
 ちなみに、1アマの国家試験レベルで問われる内容は、デジタル回路のごく基本的な内容です。

[1]アナログ信号をデジタル化する方法…その1 標本化

 アナログ信号は、「時間」とともに「振幅」が無段階に変化する電気信号です。これを「デジタル化する」というのはどういうことでしょうか? 「デジタル信号」というのは「飛び飛びの」時間、や振幅で表現された信号です。
 アナログ信号をデジタル信号に変換することを考えるためには、その「時間」と「振幅」に分けて考えます。
 Fig.HE0601_a左のようなアナログ信号があったとします。時間的に、波打つような変化をしている信号で、途中で値が突然飛んだり消えたりはしないものとします(世の中にそういう信号がないわけではないですが、ここでは音声を考えます)。
 この値を「サンプル&ホールド回路」という、ちょっと変わった回路で処理します。この回路は、外部からアナログ信号とクロックが入力されていて、クロックが入力された瞬間のアナログ信号の値を「掴んで(サンプリング=標本化)」次のクロックが入るまで「保持して(ホールド)」おく、という回路です。
Fig.HE0601_a 時間軸方向に飛び飛びにする…標本化
Fig.HE0601_a
時間軸方向に飛び飛びにする…標本化
 ですから、サンプル・ホールド回路の出力は、Fig.HE0601_aの右のようになります。ここで、クロックが一定間隔で入力されているとすると、この棒グラフの幅は全て等しくなります。このような信号処理のことを(時間)標本化あるいは(時間)サンプリングする、といいます。言い換えれば、まず「時間的にデジタル化」するわけです。このクロックの周波数を、「標本化(あるいはサンプリング)周波数」といい、ここではfsと書くことにします。この周波数fsが高ければ高いほど、元の波形が急激な変化をして(高い周波数成分を含んでいて)も後にアナログ信号に戻す時に波形が忠実に復元できることになります。
 ところで、「あるサンプリングが行なわれた瞬間と、次のサンプリングの瞬間の間に変化した信号は再現できないのでは?」と思います。その通りで、再現できません。とりもなおさずそのことは、上で述べた「高い周波数成分を含む」信号、ということになるので、標本化周波数を上げなければなりません。それで、再生側で信号が復元できるのか、どの程度までfsを上げればよいのかについては、最後に書きます。

[2]アナログ信号をデジタル化する方法…その2 量子化

 時間的には飛び飛びの信号になりました。続いて、振幅方向にも飛び飛びの値に変換しなくてはなりません。
Fig.HE0601_b 振幅方向に飛び飛びにする…量子化
Fig.HE0601_b
振幅方向に飛び飛びにする…量子化
 Fig.HE0601_aの右のグラフで、棒の下に数値が入っていますが、その数値が時間サンプリングされた電圧 [V]だとします。これを今、0〜15 [V]の1 [V]きざみで16段階の値に四捨五入で「丸めて」しまいます。
 するとその結果は、Fig.HE0601_b左のようになります。このようにある値Δv(ここではΔv=1 [V])を単位として、その値に満たない端数を丸め(大概は四捨五入)て、信号がΔvの何倍になるかを求める処理を「量子化」といいます。「量子」と聞くと物理をやったことのある方は、粒子が壁を通り抜ける「量子力学」を思い浮かべますが、電気信号の量子化はもっとイメージ的には直感的で簡単です。
 「何倍になるか」を求めた上に、小数点以下は四捨五入してしまいますから、結果は必ず整数です。こうなれば、アナログ信号が一定の時間間隔で出てくる「数字」(=データ)になってしまったので、もうデジタルの世界で処理できます。今回はΔv=1 [V]としていますから、0〜15 [V]までの値は4 [bit]で表現できます。
 実際のA/Dコンバータでは、±2.5 [V]を16 [bit]で表現したりしますから、その場合はΔv=5 [V]/216=76.3 [μV]という、非常に細かな値になります。
 一般に、n [bit]で表現できる「段階数」は、2nとなりますから、8 [bit]で256、12 [bit]で4096、16 [bit]で65536、というように、ビット数が増えれば増えるほど、細かさは「指数関数」そのもので細かくなってゆきます。入力の何 [V]をフルスケールにするか、は個々のコンバータの仕様に依存します。

 さて、これで「時間標本化」と「振幅量子化」という二つのデジタル化が完了しました。振幅の量子化で得られたデジタル値を、その値を表現する形式に変換することを符号化(又はコード化)といいます。「値を表現する形式に変換」というのは抽象的ですが、この図の例で言えば、12→1100、7→0111というような10進数を2進数に変換することです。このような一連のデジタル化信号処理をPCM (Pulse Code Modulatuin)といいます。
 ここで出てきたデジタルデータを、通信で他の場所に送る場合、どの程度の伝送速度(「ビットレート」とも言います)B [bit/s]が必要になるかを考えてみましょう。答えは案外簡単で、サンプリング周波数fsの時間間隔で、n [bit]のデータが続々と出てくるわけですから、単位時間に出てくるデジタルデータのビット数(すなわち伝送速度B)は、
 B=nfs [bit/s] …(1)
となります([bit/s]は[bps]とも書きます)。例えば、モノラルのCD音質(fs=44.1 [kHz]、n=16 [bit])であれば、44.1 [kHz]×16 [bit]=705.6 [kbit/s]となり、電話音質(fs=8 [kHz]、n=8 [bit])であれば、8 [kHz]×8 [bit]=64 [kbit/s]ということになります。普通は、このままで伝送すると非常にデータ量が多くなるので、人間の目や耳で知覚できない情報を(デジタル的に)削除するなどの「圧縮」を加えて伝送します。デジカメで使うjpeg形式も、メモリープレーヤーに録音する時のmp3形式も、みな圧縮された情報のフォーマット名です。

[3]A/D変換とコンバータの仕組み

 Fig.HE0601_cにA/D変換の周辺回路とA/Dコンバータの原理的なブロック図を示します。これを見ると、A/D変換の周辺構成は比較的シンプルで、コンバータの内部も上に書いてきた順番にブロックが並んでいます。
Fig.HE0601_c サンプリングA/Dコンバータの構成
Fig.HE0601_c
サンプリングA/Dコンバータの構成
 無線機では、マイクなどからの音声帯域の信号を増幅した後、A/Dコンバータに入力します。コンバータにはクロック源が接続されており、ここからサンプリングクロックが供給されます。
 コンバータの内部では、まず入力に対してサンプルホールド回路で時間サンプリングを行ない、その出力が一定に保たれている間に量子化ロジックが実行を開始します。量子化ロジックで得られた「数値」を2進数のコードに変換するところが、符号化ロジックです。後は出力バッファで外部とのインタフェースを取って出力されます。
 A/Dコンバータにも様々な量子化方式がありますが、内部で行なわれているのはこのような単純な動作の組合せとなります。

[4]デジタル化して元の波形が再現できる限界

 上で「圧縮」といいましたが、アナログ信号をデジタル化すること自体が、そもそも圧縮のような処理です。サンプリング間隔より短期間のアナログ信号の変動は捉えられませんし、量子化では無段階なアナログ信号を強制的に「四捨五入」という処理で丸めてしまいます。「だからデジタルは…」というオーディオマニアの声が聞こえてきそうですが、私もそう思います。時間的にも振幅的にも「この程度なら人間には分からないはず」ということで、機械の性能との「妥協点」で性能が決まっているような気がするのです。
 余談はさておき、時間方向は、入力信号の周波数成分がある範囲0〜f0 [Hz]に限られている時、どの程度以上のサンプリング周波数fs [Hz]を採れば入力の周波数成分が損なわれずに再現できるか、という値については、数学的に証明がなされた定理が存在します。それは、
 2f0<fs ならば周波数成分は損なわれず再現される…(2)
つまり、入力信号がf [Hz]までの成分しかないのなら、サンプリングを2f [Hz]より高い周波数で行なえばよい、という「定理」です。この定理を「標本化定理」といいます。「ナイキストの定理」ともいいます。標本化周波数がCDでは44.1 [kHz]、DATが48 [kHz]になっているのは、人間の可聴周波数範囲の上限がおおむね20 [kHz]とされているからです。(「いや、96kサンプリングのSACDは明らかに音が違うぜ」というのはここではなしですよ。)
 ちなみに、振幅方向はどの程度細かく量子化すればいいのか、ということについて「定理」はありません。「細かければ細かいほど良い」ということになるのですが、元の信号とデジタル化された信号の差を「量子化誤差」といい、あまりΔvが粗いと受信側(CD等ではD/A変換波形)でノイズとして聞こえます。ビット数が増えると、このノイズが少なくなりますが、「数値化」して「丸め」ている以上、ゼロにはできません

それでは、解答に移ります。
 …「符号化パルス列による…」はPCMの説明です
 …標本化定理から、元の信号の2倍以上の周波数で標本化します
 …標本値は一定の振幅間隔で量子化されます
となりますから、正解はと分かります。