□ H15年08月期 A-22  Code:[HI0206] : MUF(最高使用周波数)・LUF(最低使用周波数)・FOT(最適使用周波数)の説明
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1508A22 Counter
無線工学 > 1アマ > H15年08月期 > A-22
A-22 次の記述は、短波帯の電波伝搬について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
2地点間の短波通信回線において、使用周波数を次第に[A]すると、電離層のD層及びE層における[B]減衰が大きくなってゆき、ついに通信ができなくなる。この限界の周波数を[C]という。

高く 第2種 LUF
高く 第1種 MUF
低く 第1種 MUF
低く 第1種 LUF
低く 第2種 MUF

 この問題は、短波の電離層を使った伝播について、いろいろな要素を問うています。キーワードは、LUF、MUF、第一種減衰、第二種減衰、FOTなどです。これらが電離層の電子密度と共に、一日の間にどのように変化しているか、を掴んでおけば解けるでしょう。

[1]電離層の電子密度は時間と共に変化する

 電離層は太陽の光やそこから飛来する高速な粒子によって、大気を構成する気体が電離したものです。従って、昼と夜とでは電子の密度が大きく変化しますし、また、同じ昼でも単位面積あたりの光の強度が違うので、夏と冬とでは電子密度が異なります。
 この問題では、電離層の一日のうちの変化に着目しています。電離層には下(地表に近い方)から順に、D層、E層、F層とありますが、定性的に言えば、どの層も昼間は電子密度が高く、夜間には低下します。特に、D層は夜間は消滅(電子密度=0)してしまいます。

[2]電子密度と透過による減衰(第一種減衰)の関係

 電波が電離層を突き抜ける時に受ける減衰を「第一種減衰と言います(Fig.HI0206_a左)。定性的には第一種減衰は、周波数が一定なら、電子密度が高いほど大きく、また、電子密度が一定なら、周波数が低いほど大きくなります。もう少し定量的に書くと、減衰量は、
 ・電離層の電子密度にほぼ比例する
 ・周波数の2乗にほぼ反比例する

Fig.HI0206_a 第一種減衰と第二種減衰
Fig.HI0206_a
第一種減衰と第二種減衰
 という性質を持ちます。電子密度による依存性よりも、周波数依存性の方が大きい、ということです。
 身近にある現象としては、昼間は地表波しか聞こえない中波放送(AM放送)が夜になると遠方の放送局まで聞こえてくる、ということがあります。これは、D層が消滅して第一種減衰がなくなり、E層の反射で跳躍伝搬するためです。
 また、昼間はD層の電子密度が上がりますが、HFのハイバンド(18〜28 [MHz])は周波数が高いので、D層・E層の第一種減衰の影響をあまり受けず、F層の反射のみで伝搬します。
 ある2点間で通信をする場合、第一種減衰によって通信できなくなってしまう、低い側の限界の周波数をLUF(Lowest Usable Frequency)といいます。

[3]電子密度と反射による減衰(第二種減衰)の関係

 電離層に反射される時に受ける減衰を「第二種減衰(Fig.HI0206_a右)といいます。第二種減衰は、周波数が一定なら、電子密度が高いほど大きく、電子密度が一定なら、周波数が高いほど大きくなります。周波数が高いほど、電離層の高いところで反射が起こるため、減衰を受ける(電離層の中を通る)経路が長いから、とされています。
Fig.HI0206_b 臨界周波数と正割法則
Fig.HI0206_b
臨界周波数と正割法則
 周波数を上げ過ぎると、突き抜けが起こってしまうので、通信が不能になってしまいます。ある2点間で、突き抜けが起こらず使用可能な最高周波数をMUF(Maximum Usable Frequency)といいます。MUFは電子密度の平方根と電離層への入射角θの正割(secθ)に比例し、後者を正割法則(Fig.HI0206_b)と言います。
 第二種減衰の周波数に対する依存性は第一種減衰のように単純ではなく、MUFの半分程度以下の時はほとんど減衰がなく、MUFに近くなると急激に増大する、という特性を持っています。

[4]通信可能な周波数はある範囲を持つ

 ここまで読んでこられて、ずいぶん複雑だな、とお感じかもしれませんが、(できるだけ)シンプルにまとめると以下のようになります。
 ・使用可能な周波数の上限(MUF)はF層の突き抜けで決まる
 ・使用可能な周波数の下限(LUF)はD層又はE層の第一種減衰量で決まる
 ・MUFは電離層への入射角にも依存するので2点間の距離に依存する
 ・MUF・LUFは電子密度に依存するので、時間とともに変化する
 これを、横軸時間、縦軸周波数に取って、LUF,MUFの時間変化を一つのグラフに描いたものがFig.HI0206_cになります。このグラフを描く時は、2点間の距離を決めなければなりません。
 LUF,MUFともに日中に山を持つグラフとなりますが、MUFより上の周波数では電波がF層を突き抜けてしまい通信できず、LUFより下ではD層又はE層の減衰により通信できません。
 結局、通信可能なのはこれらの曲線に挟まれた緑色の部分、ということになり、時間によって通信できたりできなかったりする周波数が出てきます。
Fig.HI0206_c LUF・MUFの時間変化
Fig.HI0206_c
LUF・MUFの時間変化
 例えば、朝方は通信できた7 [MHz]帯も昼になると減衰してしまうため、10 [MHz]や14 [MHz]にQSYしなければならなくなりますが、逆に28 [MHz]帯だと突き抜けてしまい、これまた交信できません。
 なお、このグラフを描く時の横軸は、「世界時」ではなく「地方時」であることに注意して下さい。これは、横軸はすなわち太陽の動きを示したものですから、世界時では意味がないからです。
 また、近距離では電離層反射波は打ち上げ角が大きくなるので届きませんが、地表波で通信できることがあります。地表波はすぐに減衰してしまうので、電離層反射波も地表波も届かない範囲が生じますが、この範囲のことを不感地帯と呼びます。

[5]最適運用周波数FOT

 これまで書いてきたことは、電離層の電子密度が時間とともにゆっくりと変化する、という前提に立っていますが、相手は自然現象ですから、そう簡単にはいきません。実際には、電子密度は場所による濃淡もありますし、時間によっても(太陽の動きと無関係な揺らぎとして)変動しています。
 MUFやLUFギリギリの周波数で通信していると、電界強度が不安定になって通信に支障をきたすことがあります。このため、最適な運用周波数として、MUF×85%の周波数をFOT(Frequency of Optimum Traffic)と定義しています。

それでは、解答に移ります。
 …D層及びE層の減衰が大きくなるのは周波数を低くする時です
 …電離層を突き抜ける減衰は第一種減衰です
 …第一種減衰による低い周波数側の通信限界はLUFです
となりますから、正解はと分かります。