□ H15年12月期 A-24  Code:[HI0204] : 臨界周波数と跳躍距離、電離層の見かけの高、最高使用周波数等の計算
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1512A24 Counter
無線工学 > 1アマ > H15年12月期 > A-24
A-24 電離層の臨界周波数が8.4 [MHz]であるとき、送信点から800 [km]離れた地点と交信しようとするときのMUF(最高使用周波数)の値として、最も近いものを下の番号から選べ。ただし、電離層の見掛けの高さを300 [km]とし、地表は平らな面とみなす。
 7 [MHz]
14 [MHz]
18 [MHz]
21 [MHz]
28 [MHz]

 電離層に斜めに電波を入射させて、その高さや跳躍距離から利用可能な最高周波数を求める、という問題です。臨界周波数や、正割(セカント)法則と言ったものを理解する必要があります。

[1]臨界周波数とは何か

 周波数が高いバンドでは、電離層が使えないため、通常は見通し距離でしか通信できないのはご存知の通りです。では、その「使えるか使えないか」はどのようにして決まっているのでしょうか? もちろん人が決めているわけではなく、電離層という自然が決めているわけですが、それを考えてみよう、ということです。
Fig.HI0204_a 電離層で反射する電波の周波数
Fig.HI0204_a
電離層で反射する電波の周波数
 まず、Fig.HI0204_a左のように、電波の周波数を変化させながら、垂直に打ち上げる場合を考えます。通常、反射が返ってきたかどうかを確かめるため、パルス波を送信します(こうすると往復時間から、「見掛けの高さ」も分かります)。
 低い周波数から始めて、周波数を上げて行くと、ある周波数で突き抜けが起こって電波が返ってこなくなります。この反射が返るぎりぎりの周波数を、臨界周波数fcといいます。
 通常、我々が通信する時は、自分自身と交信するわけではありませんから、臨界周波数を求めても、意味がないように思えます。
 ところがそうではなく、この後に書くように、電離層に電波が斜めに入射する時も、その角度とこの臨界周波数で、通信可能な最高周波数が決まるのです。
 では、この臨界周波数fcが何によって決まるかといえば、電離層の(最高)電子密度です。「最高」を括弧書きにしたのは、電離層の電子密度は一様ではなく、高さ方向の分布があるためです。その電子密度の最高値をNe(単位は一立方メートルあたりの電子の個数:[個/m3]です)とすると、fcは以下のように近似されます。
 c≒9√Ne [Hz] …(1)
係数の9は、整数の9ではなく、諸々の定数から算出される概算値です。このように、電子密度が高いほど、高い周波数まで通信が可能になります。この式は、どの層でも成り立ちます。電子密度は場所、時間によっても変化します。そのため(ここでは場所による電子密度のムラや時間変化は何も言っていませんが)cは場所によっても時間によっても異なります。

[2]セカント法則(正割法則)…電波を斜めに打上げたらどうなる?

 普通の交信は(地球上で)場所が離れたところと行なうので、電離層には電波が斜めから入射することになります。この様子は、Fig.HI0204_aの中ほどの図になります。ここでは、電離層も地球も平面だと単純化して、電離層の面の法線と電波の進行方向がなす角をθとします。
 このケースも、垂直打ち上げの時と同様に、低い周波数から始めて周波数を上げて行くと、ある周波数fMUより高い周波数では突き抜けてしまい、通信できなくなります。定性的な振る舞いは、垂直打ち上げの時と同じです。斜め入射の時のこの周波数MUを、MUF(Maximun Usable Frequency:最高使用可能周波数)といいます
 それでは、このMUFと上で見たfcはどのような関係にあるのでしょうか? 感覚から言って、fcが高ければfMUも高そうです。
 それを考えるために、「正割法則」又は「セカント法則」と呼ばれているものを考えます。証明は、電離層が高さ方向に(電子密度で決まる)屈折率を持っていることと、スネルの法則を組み合わせて行ないますが、ここでは書きません(厳密にやれと言われてもできないので…)。
 それに依れば、fMUはfcとθによって以下のように表されます。
 MU=fcsecθ …(2)
単純な式ですから覚えてしまうのがいいと思います。secθというのは、cosθの逆数、つまり1/cosθですから、垂直入射、すなわちθ=0 [rad]でfMU=fc、θ=45°(π/4)でfMU=(√2)fcとなります。
 もし、(2)式を忘れたら、以下のような定性的な性質から導き出してしまいます。
 「MUFは臨界周波数に比例し、入射角が浅い(=θが大きい)ほど高い
 セカントsecθが1/cosθであることは忘れないようにしないといけませんが、θが大きくなるほど値が大きく、しかもθ=0(垂直入射)で臨界周波数と等しくなるので、1/sinθでないことは分かります。
 法則の名前がどうこうよりも(上で書いたような)もっと大事な定性的性質を理解しましょう。つまり、角度が浅くなるほど、同じ臨界周波数の電離層でも高い周波数を反射できるため、1エリア−2エリア間で21 [MHz]が使えない時に、同じ周波数で1エリア−8又は6エリアとは交信可能になるのは、このセカント法則によります。
 このことを示したのがFig.HI0204_bで、cより高い周波数を発射する局が電離層に対していろいろなθで発射するとすると、θがある角度よりも小さくなると突き抜けが起こって通信できなくなります
Fig.HI0204_b 斜め入射波とセカント法則の適用
Fig.HI0204_b
斜め入射波とセカント法則の適用

[3]電離層の見かけの高さと跳躍距離の計算

 電波が電離層に斜めに入射すると、電子密度の分布によって、経路が曲げられます。従って、実際に電波が到達している高さと、電波が直進すると考えた経路の反射点の高さは異なります(Fig.HI0204_c)。電波が直進するとして考えた「見かけの高さ」をhとします。
Fig.HI0204_c 電離層の高さと跳躍距離の計算
Fig.HI0204_c
電離層の高さと跳躍距離の計算
 ここでは証明しません(できません)が、入射角θによってhは変化しないことが分かっています。つまり、θが変化してもhは一定です。hは臨界周波数を測定する時に同時に測定できます。
 相手局までの距離2dが与えられた時のMUFを求めたり、逆にMUFが与えられて最短の跳躍距離を求めたりすることができます。アマチュアの場合、周波数は多数のバンドで与えられていて、交信したい地点(エリア)があるとそこまでのおおよその距離が分かりますから、どの周波数を使えば交信可能か、ということが分かるようになります。
 fMU、fc、d、h、θの相互の関係は、Fig.HI0204_cの図から、
 secθ=[√(d2+h2)]/h …(3)
となるので、これを(2)式に代入して、
 fMU=fc[√(d2+h2)]/h …(4)
となります。問題によっては、これらのうちのどれかが未知数になっていて、それを求めたり、安定に交信できる最適周波数FOT(=fMU×85%の周波数)を求めたりすることになります。

それでは、解答に移ります。
 この問題では、MUFを求めろ、と言っているので、(4)式がそのまま使えて、h=300 [km]、d=800/2=400 [km]、fc=8.4 [MHz]と、各々の値を代入すれば
 fMU=8.4×√(160000+90000)/300=14 [MHz]
と求められるので、が正解と分かります。