□ H16年08月期 A-13  Code:[HE1103] : TVI/BCI防止で送信側の対策(LPFの遮断周波数と基本波・高調波周波数)
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1608A13 Counter
無線工学 > 1アマ > H16年08月期 > A-13
A-13 次の記述は、電波障害対策のための高調波発射の防止フィルタについて述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
送信機で発生する高調波がアンテナから発射されるのを防止するために、高域フィルタを用いる。
高調波の発射を防止するフィルタの遮断周波数は、基本波周波数より高く、発射を防止する高調波周波数より低くする。
高調波の発射を防止するフィルタの減衰量は基本波に対してはなるべく小さく、高調波に対しては十分大きなものとする。
送信機で発生する第2又は第3高調波等の特定の高調波を防止するために、高調波トラップを用いる。
高調波トラップは特定の高調波周波数に正しく同調させ、その減衰量は高調波に対しては十分大きく、基本波に対してはなるべく小さなものとする。

 TVI除去のためのフィルタの問題です。1アマを取ってハイパワー運用しよう、という方は丸暗記などせずに、是非解答とともにその理由を確認して下さい。実際に役に立つ場合があると思います。ここでは、送信側で高調波を防止するLPFと、受信側でアマチュア局側の基本波を排除するHPFについて詳しく調べてみました。
 これは、必ずといっていいほど、選択肢に「低域フィルタ(LPF)」と「高域フィルタ(HPF)」があって、どちらがどちらか分からなくならないように、理由とともにマスターするためでもあります。

[1]インターフェアに利用するフィルタ2種…LPFとHPF

 ここからは、アマチュアのインターフェアの対策として利用する、低域フィルタ(LPF)高域フィルタ(HPF)について調べてみます。
 まず、これらのフィルタについて学ぶ前に、基本をおさらいしておきましょう。始めに、高調波についてです。高調波は、信号を増幅した結果、出力が入力信号と相似形で出力されず、ひずみが生じた時に発生する、基本波の整数倍の信号成分のことです。例えば、7.01 [MHz]がひずんで出てくると、14.02 [MHz]や21.03 [MHz]といった周波数成分が出てきます。つまり、高調波は基本波よりも必ず高い周波数であるのです。
 この高調波の周波数が、放送波の周波数と一致すると、受信側では本来受けたい電波と区別できないので、妨害となるわけです。
 もうひとつの基本波による妨害は、先の例でいうと7.01 [MHz]の電波そのものです。この電波が、TVやラジオの感度を抑圧したり、それ以外の電波を受けるのが目的でない機器(楽器、インターホン、エアコンなど)の装置内の基板やケーブルに飛び込み、誤動作や妨害を引き起こすものです。
 基本的に、電子装置はイミュニティといって、外から電波を受けても正常に動作するように設計されていますが、これも程度問題で、至近距離から1 [kW]も掛けられたら、大概の機器には何か起こります。
Fig.HE1103_a 送受信側それぞれの対策の要
Fig.HE1103_a
送受信側それぞれの対策の要
 妨害防止に使うHPFは、TVやラジオに使うことがほとんどですので、以下では、電波を受けるのが目的ではない楽器やエアコンなどの妨害は対象としないことにします。
 送信側で対策を取らなければならない高調波は、基本波だけを通して(放送波に近い周波数の)高調波を減衰させる、という低域(ローパス)フィルタを通せば効果があります。また、基本波では、妨害を受ける側に放送波だけを通して、アマチュアの基本波は排除する高域(ハイパス)フィルタを入れればいいことになります(Fig.HE1103_a)。なお、国家試験では基本波がHFの時が多く出題されます。しかし、例えば430 [MHz]で電波を出していて、FMラジオの受信に妨害が出る場合は、受信側に入れるフィルタは低域フィルタとなりますので、放送波と基本波の周波数の高低にご注意下さい。

[2]低域フィルタによる高調波排除

 低域フィルタは、送信機とアンテナの間に挿入して、送信機から出る高調波を減衰させるものです。低域フィルタというのは、(ある周波数より)「低い周波数成分を通過させ、高い周波数成分を減衰させる(通さない)フィルタ」という意味です。
Fig.HE1103_b 低域フィルタによる高調波の減衰
Fig.HE1103_b
低域フィルタによる高調波の減衰
 低域フィルタの動作は、Fig.HE1103_bの図のようになります。低域フィルタのカットオフ周波数は、フィルタに通す信号(正弦波)の周波数を上げて行き、十分低い周波数の時に比べて出力が電力で3 [dB]落ちる周波数を言います。
 これより低い周波数を「通過域」、高い周波数を「阻止域」といい、高い周波数は減衰させられます。カットオフ周波数が基本波と第2高調波の間にあるフィルタを持ってくれば、基本波だけが通過して高調波は減衰する、という仕組みです。
 しかし、実用上のことを考えれば、カットオフ周波数を基本波のすぐ上に持ってくることは不便です。
 なぜなら、上でも述べたように、7 [MHz]の電波を出せば、この整数倍の高調波が出ますが、FMやTVの受信に問題が出るのは70 [MHz]以上の高い周波数領域です。HFのアマチュアバンドには28 [MHz]までありますから、14 [MHz]や21 [MHz]の高調波が出るからと言って、カットオフ周波数を8 [MHz]にしてしまったのでは、バンドを変えるごとにフィルタも切替えなければなりません
 このため、通常アマチュア用(HF用)のフィルタは、カットオフが30 [MHz]となっています。

[3]高域フィルタによる基本波排除

 高域フィルタというのは、低域フィルタとは逆に、(ある周波数より)「高い周波数成分を通過させ、低い周波数成分を減衰させる(通さない)フィルタ」という意味です。
 これを用いるのは、HF局の妨害を受けるTVやFMの放送受信側です。なので、以下は受信側で考えてみます。上で説明したように、電波を受信する目的のテレビやラジオでは、元々目的外の周波数は排除するようにできていますが、至近距離で大出力の電波を出されると、高周波増幅段が飽和してしまい、混変調などを引き起こします
Fig.HE1103_c 高域フィルタによる基本波の減衰
Fig.HE1103_c
高域フィルタによる基本波の減衰
 そこで、放送波の周波数帯域だけを通過させ、アマチュア局のHF帯の電波を減衰させる高域フィルタをアンテナと受信機の間に挿入すれば、元々の妨害排除能力の許容レベルまで基本波レベルを下げることができ、問題なく受信できるようになります。
 高域フィルタにも低域フィルタと同様のカットオフ周波数があります。カットオフ周波数を基本波と放送波の間に持ってくればいいわけ(Fig.HE1103_c参照)です。
 この効果は結構大きく、私の実家で100 [W]を開局した時も、これでほとんどのTVIが止まりました。
 実際に販売されているHPFは、この周波数が50 [MHz]よりも高いものが多いようです。FM放送は78 [MHz]からですし、そのすぐ上はTV放送なので、アマチュアバンドのHFと50 [MHz]の基本波はまとめて阻止できるようになっています。

[4]特定の周波数(高調波)を減衰させるトラップ

 元々「トラップ」というのは「わな」という意味ですが、不要信号を取り除くエレキの世界で使われる場合は、特定の周波数成分のみを減衰させ、他の周波数はそのまま通す、という機能を持ったフィルタをいいます。
 このフィルタの中身は、鋭い共振特性を持った共振回路です。ちょうど、受信機のビート妨害を除去するノッチフィルタのような特性です。このフィルタは、送信側で送信機とアンテナの間に挿入します。Fig.HE1103_dのように、あらかじめ、トラップする周波数を、送信周波数の整数倍の周波数に設定したものを用意して挿入します。
 基本波に対しては減衰がほとんどないので、高調波が取り除かれた基本波のみがアンテナから発射される、というものです。
Fig.HE1103_d トラップによる高調波の除去
Fig.HE1103_d
トラップによる高調波の除去
 市販されているものはあまり数がありません。基本波が通りますから、ハイパワーに耐えられて、減衰が少なく、しかも高いQを持った共振回路を構成しなければならないので、技術的難易度が高いためだと思います。

それでは、解答に移ります。
 …高調波除去は高域フィルタではできませんので誤りです
 …遮断周波数は、基本波より高く、高調波より低くなければなりません
 …減衰は、基本波には小さく高調波には大きくなければなりません
 …トラップは特定の周波数だけを減衰させるので正しい記述です
 …トラップは高調波以外の周波数での損失が少ないことが求められます
となりますから、正解(誤った選択肢)はと分かります。