□ H17年04月期 A-16  Code:[HF0606] : 受信機で発生する相互変調の発生原理
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1704A16 Counter
無線工学 > 1アマ > H17年04月期 > A-16
A-16 次の記述は、受信機で発生することがある相互変調について述べたものである。このうち正しいものを下の番号から選べ。
増幅器の調整不良により、本来希望しない周波数が生ずるために発生する混信をいう。
受信機に二つ以上の強力な不要波が混入した場合、回路の非直線性により、混入波周波数の整数倍の周波数の和又は差の周波数を生じ、これらが受信周波数又は受信機の中間周波数や影像周波数に合致したときの混信をいう。
希望する受信周波数に対し、近接した周波数の強力な電波を受信した場合の混信をいう。
受信機に不要波が混入した場合、回路の非直線性により、希望波が不要波の変調信号により変調され、混信を発生することをいう。
増幅器及び音響系を含む伝送回路が、不要の帰還のため発振して、可聴音を発生することをいう。

 受信機の妨害のうち、「相互変調」と「混変調」は名前が良く似ていて間違えやすいものです。また、両方とも回路の非線形現象が原因で起こるので、実際の交信の現場でこれが起こると、すぐにはどちらか見分け(聞き分け?)が付きません。ここでは、両者の違いに焦点を当てて書いてみました。

[1]相互変調…自局とは全く関係のない二波で起こる妨害

 まず、この問題で問われている、「相互変調」について調べてみます。相互変調は、以下のような条件で起こります。
  • 自局以外の強力な2周波数の局が現れている
     これらの2局は、全く自局とは関係ない局で、アマチュア以外の局でもあり得ます。両方が強力である場合はもちろん、片方のみが極端に強力であれば妨害は起こり得ます。近くに放送局などがある場合にはこれに当たります。
  • その2局の周波数差が受信周波数や中間周波数にかぶる
     下記で詳細に見て行きますが、これらの2局の周波数の差が、たまたま自分の受信している周波数だったり、中間周波数の帯域内に入ってくると、妨害波として聞こえてくるのです。逆に言うと、自局の受信周波数が妨害の2局の周波数差から外れると、妨害は起こりません
 では、なぜこのような妨害が起こるかも含めて、もう少し詳しく見て行きましょう。
Fig.HF0606_a 相互変調の発生する周波数関係
Fig.HF0606_a
相互変調の発生する周波数関係
 Fig.0605_aに、2つの妨害波の周波数関係の例を示します。1局がfU1もう1局がfU2です。
 この時、受信機の高周波増幅段や、中間周波増幅段が非直線性を持つ(早い話が、ひずみが生じる)と、f21=2fU1−fU2やf12=2fU2−fU1という成分が発生します。これらの成分のことを3次の混変調積といい、両者の振幅の積の3乗に比例します。
 では、2次がなくていきなり3次なのは何故でしょうか?
 2次の成分は|fU1−fU2|やfU1+fU2となって、普通は非常に低周波な成分か高周波な成分なので、問題にならないのです。
 3次が問題になるのは、例えばコンテスト中に、自分が21.200 [MHz]で交信している時、21.300 [MHz]と21.400 [MHz]にローカル局が出てきたようなケースで、各々相当離れているにもかかわらず、自分が交信しているまさにその周波数に、これらの局の混変調積(俗に言う「お化け」)がかぶってくるからです。
 同様に5次や7次といったより高次の成分も存在しますが、一般に強度が弱いため、問題になりません。
 このように3次の相互変調妨害は、自分の受信しようとする周波数のごく近くに発生しますので、中間周波数以降でIFフィルタで落とそうとしても不可能です。これを防ぐには、
  • 必要帯域外の電波を高周波増幅器に入れない
     上の例で見たように、2局ともアマチュア局の帯域内なら無理ですが、放送局や業務局が近くにある場合などは、妨害波が高周波増幅段に入ってこないように、フィルタやトラップを受信機の手前に入れることが有効になります。
  • 増幅段の直線性を良くする
     そもそもの原因が回路の非直線動作にあるので、なるべく直線領域で動作させるようにバイアス点を設計する、等の対策が有効になります。とは言っても、いくら高価な素子を使っても、原理的にゼロにはできません
これもTVIと似ていて、原因となる電波を受けないようにする、もしくは、受けても混変調積の発生量が少なくなるようにする、という2段構えが有効です。

[2]混変調…強い局に自局の受信信号が変調を受ける

 次は混変調です。混変調は、以下のような条件で起こります。
  • 強力な周波数の局が現れている
     普通、妨害局の周波数は、自局の高周波増幅段の帯域外にある場合に起こります。相互変調が2局以上でしたが、混変調は1局でも起こります。
  • その局が振幅変調波を出力している
     全く強度が変化しないのなら、混変調は起こりません(別問題として、感度抑圧のような妨害は起こり得ます)。自局の受信している信号が、妨害局の振幅変調と同じ変調を受ける現象です。
 では、なぜこのような妨害が起こるかも含めて、もう少し詳しく見て行きましょう。
 Fig.0605_bに、受信(希望)波と妨害波の周波数関係の例を示します。妨害局の搬送波がfUc側波帯(の一方)がfUc+fs、受信波がfDとします。
 この時、受信機の高周波増幅段や中間周波増幅段が非直線性を持つ(ひずみが生じる)と、希望波が妨害波に変調され、fD−fsやfD+fsという成分が発生します。
 両側波帯が生じるのはAM変調と同じです。相互変調と異なるのは、混変調で生じる妨害の強度は、妨害局と希望波の強度の2乗に比例することと、混変調は周波数に関係なく、バンド内どこでも起こることです。
Fig.HF0606_b 混変調の発生原理と周波数関係
Fig.HF0606_b
混変調の発生原理と周波数関係
 この混変調を防ぐために採る対策は、基本的には相互変調と同じです。近くに放送局がある、などで常時強い電波が出ているが周波数が変化しないような場合は、プリセレクタなど、アマチュアバンドのみを高周波増幅に入力するようなフィルタが有効でしょう。
 しかし、アマチュアの場合は、ローカル局が出てくるケースが最も多いですし、妨害波のレベル的にも問題が大です。このような場合は、回路の設計で直線部分を利用するようにしなくてはなりません。とはいえ、自作の受信機でなければ、「買ってしまったリグを買い換える」というわけにも行かないので、目的波が十分強いなら、アッテネータを入れるなどして、妨害波がひずみが起こらないレベルにするのも一つの手です。
 なにしろ、混変調の強さは目的波と妨害波の強さの積の2乗です。20 [dB](電圧で1/10)のアッテネータを入れれば、混変調は40 [dB](1/100)落ちてしまいますが、目的波は1/10にしかなりません。

[3]増幅回路のひずみとは何か?

 最後に、これら妨害の原因となる、増幅回路のひずみとは何でしょうか? 増幅回路にひずみがあるというのは、簡単に言うと、入力と出力の波形が完全に相似形になっていない、ということです。
 非線形性があると、入力にf1とf2の周波数の正弦波(f1>f2)を入れた時に、2f1、2f2、f1±f2(2次)や3f1、3f2、2f1±f2、f1±2f2(3次)などの成分が出てくる、ということです(詳しい説明は数式が必要になるのでやりません)。
 これを積極的に利用して、リング回路やC級増幅回路など非線形性の大きな回路で、高次の成分を取り出すのが逓倍器や周波数変換器です。逆に、普通の増幅回路ではこの成分があっては困るわけです。ですが、現実にはどんな高価な素子を持ってきてもひずみゼロの増幅回路は存在せず、これらの混変調積や高調波の成分はなくなりません
 そのため、対策としては上に書いたように、主に、妨害となる原因の信号を十分減衰させ、目的波のみを増幅するようにするか、(十分に設計された回路では困難ですが)増幅回路自体のひずみを減らすかの2つ、ということになります。

それでは、解答に移ります。
 …これは寄生振動又は発振の現象ですから誤りです
 …これが相互変調の起こるメカニズムの説明ですから正しい
 …これは近接周波数混信ですから、誤りです
 …この説明は混変調の発生メカニズムですので誤りです
 …これはハウリングなど音声系からのフィードバックなので誤りです
となりますから、正解はと分かります。