□ H17年04月期 B-01  Code:[HD0802] : PLLの構成を表す文章
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12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1704B01 Counter
無線工学 > 1アマ > H17年04月期 > B-01
B-01 次の記述は、位相同期ループ(PLL)回路について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。
(1) 基本のPLL回路は、二つの入力信号を比較する[ア]、この出力に含まれる不要な成分を除去するための[イ]及びその出力に応じた発振周波数を出力する[ウ]の3つの主要部分で構成される自動制御回路の一種である。
(2) この動作を応用して[エ]を作ることができるので、多くの無線機器の局部発振器として用いられている。
(3) このほか、FM波の変調器や、FM及びAM波の[オ]にも用いられている。
増幅器 水晶発振器 逓倍器 帯域フィルタ 平衡変調器
復調器 周波数
シンセサイザ
電圧制御
発振器
位相比較器 10 低域フィルタ

 位相同期ループ(回路をやっているとPLLと呼ぶ方が普通ですね)はよく出題されます。PLL単体だけではなく、この問題のように分周器と組み合わせて、任意の周波数を発生させられる周波数シンセサイザの問題も多いです。

[1]PLLの構成と動作

 Fig.HD0802_aは、単純化したPLLの構成です。実際に使われているものはもっと複雑ですが、要素だけ見れば大概このようになっています。
 まず、入力としては基準となる信号が必要です。普通は、基準として水晶発振子や特殊なところでは標準電波のキャリア(搬送波)など、周波数が一定で変動が少ないものを選びます。
 基準入力と出力は、PLLのキー部分の一つである「位相比較器」に入ります。「位相」を「比較」するとはどういうことかというと、基準信号と出力の位相のズレに応じた(電圧)出力を得るというものです。
 例えば、基準に対して出力の位相が進んでいればそのズレの大きさに応じた正の電圧を、遅れていれば負の電圧を出力します。
Fig.HD0802_a PLLの原理的構成と各部の波形
Fig.HD0802_a
PLLの原理的構成と各部の波形
 位相比較器の出力は「リアルタイム」で、信号の周期ごとに出力されますから、基準入力の周波数と同じ成分を多く含む脈流になっています。これでは、後に繋がる「電圧制御発振器(VCO)」の動作に都合が悪いので、低域フィルタ(これも単にLPFと言うのが普通です)に通し、電圧の変化を平坦にします。
 PLL出力が入力の周波数に同期することを、「ロックする」と言います。入力の周波数が変化した場合、再びロックするまでにはある程度の時間がかかります。その時間は、主にLPFの時定数に依存します。
 LPFの帯域を狭くする(時定数を長くする)と、VCO入力の変化の度合いが緩やかになるので、入力側で周波数を頻繁に変更する用途では、ロックアップタイム(PLLが所定の周波数にロックされるまでの時間)が長くなります。逆に帯域を広くすると、ロックアップタイムは短くなりますが、ロックが不安定になります。

 LPFの出力を入力とする電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator)は、入力の電圧に対して直線的に出力周波数が変化する領域を持った発振器です。普通、入力電圧が変化しても、出力振幅は変動しません。変化するのは周波数だけです。
 位相比較器の出力がLPFを経てVCOに入る時に、位相ズレに応じた電圧が、ズレを修正する方向にVCOの周波数を変動させるように設計します。Fig.HD0802_aを見てお気づきの方もおられるかもしれませんが、PLLは「帰還(フィードバック」回路、それも負帰還回路です。
 基準信号に対して、出力の位相が遅れればVCOの周波数を上げ気味にして位相を進め、逆に出力の位相が進めばVCOの周波数を下げて位相を遅らせます。このようにして、出力周波数が、基準入力に対して位相も周波数も同じになるように制御するのがPLLです。(但し、この動作は基準信号の1周期内では行なえず、LPFの時定数にもよりますが、数十周期〜数千周期分程度の時間が必要です。)

[2]周波数シンセサイザの構成と動作原理

 ここまで見てきたPLLは、入力と同じ周波数しか出せないものでした。しかし、世の中には周波数を自由に操りたい用途は広く存在します。アマチュアの無線機も昔はLC発振を使ったVFOでしたが、今ではこのPLLを応用した、安定な可変周波数発振器が使われています。
 その可変周波数発振器を周波数シンセサイザ、というのですが、ここではその構成と動作を見てゆきましょう。
Fig.HD0802_b 周波数シンセサイザの構成と動作原理
Fig.HD0802_b 周波数シンセサイザの構成と動作原理
 Fig.HD0802_bがその概略構成です。簡単に言えば、PLLに安定な発振器分周比を可変にできる分周器を付加したものです。それぞれの働きについて説明します。
 まず、安定な発振器があります。簡単なものは水晶発振器や、安定度を重視したものでは発振周波数を温度補償可能なTCXO、はたまた特殊なものでは標準電波の搬送波等を用います。ここでの発振周波数をf0とします。
 次に、この発振器の入力は、分周比が可変な分周器に入ります。分周比は外部から設定可能で、手動(スイッチなど)やマイコン(マイクロコントローラ)など電気的な方法で変えられるようになっています。昔はよくサムホイールで周波数を変えるハンディ機等がありましたが、周波数シンセサイザを使ったものであれば、分周比の設定に使われたものでしょう。ここで設定される分周比をMとします。
 0/Mの周波数が、上に説明してきたPLLの基準入力として入ります。電圧制御発振器(VCO)の出力(周波数fs)が取り出されると同時に、位相比較器に戻るのですが、その途中で第2の可変分周器で分周されます。この分周比も第1の可変分周器と同様、手動やマイコンで変えられるようになっています。ここで設定される分周比をNとします。
 位相比較器の入力は2つですが、このPLLがロックしている状態では、その2つの入力が等しくなっていなくてはなりません。つまり、
 0/M=fs/N …(1)
である、ということです。(1)を出力周波数fsについて解けば、
 fs=(N/M)f0 …(2)
となります。つまり、Mで周波数のきざみ(ステップ)を可変することができ、そのN倍の周波数が出力できる、という仕組みです。例えば、SSBとCWが送受できるトランシーバでは、SSBとCWで周波数ステップ(Mの設定)を変えたり、ダイヤルを回せばNが増減したりするようにできれば、周波数のコントロールが自由に行なえます。
 このように、PLLや周波数シンセサイザの応用は非常に幅広く、上に挙げた無線機の他にも、モーターで回転数を変えたりする必要がある場合や、パソコンのCPUなどでクロック周波数を内部で上げたり下げたりする場合などに用いられます。

それでは、解答に移ります。
 …2つの入力の位相差を比較、出力するものは9位相比較器です
 …位相比較器の出力を濾波するのは10低域フィルタです
 …低域フィルタの出力で周波数が決まるのは8電圧制御発振器です
 …周波数可変の局発は7周波数シンセサイザで実現されています
 …LPF出力は、FM変調の逆関数なので、6復調器として使えます
となります。

 ところで、の選択肢にある、「PLLでAM復調(検波)ができる」というのは、「同期検波」という方法を用いたプロの工学の問題で、アマチュアレベルでは何故そうなるのかは教科書には出てきません。ここでは、簡単に説明しておきます。

 まず、AM波をそのまま基準信号と見立てて位相比較器に入力します。搬送波の周波数をωc、変調信号(音声)周波数をωsとすると、位相比較器の出力にはωsの成分も出てきますが、数Hzとか数10Hzという、非常に低い周波数のカットオフを持つLPFに通してやれば、ほぼこれが取り除けます。
 この電圧でVCOを制御し、VCOが搬送波周波数ωcで発振するようにします。これを元のAM波と乗算すると、以下のような項が出てきます。

 (1) 直流成分(周波数=0)
 (2) cosωsの成分(検波出力)
 (3) cos2ωcの成分(搬送波の2倍の周波数)
 (4) cos(2ωc±ωs)の成分(搬送波の2倍±音声周波数)

 これらのうち、(2)の検波出力は他と大きく周波数が異なるので、容易にフィルタで分離できて、AM検波ができることになります。要は、AM変調波から、搬送波と同じ周波数をPLLに発振させ、乗算して直流と2倍波を取り除き、信号波を得るということです。