□ H17年08月期 A-14  Code:[HE1101] : アマチュア局の送信側で講じるべきTVI/BCI防止策
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1708A14 Counter
無線工学 > 1アマ > H17年08月期 > A-14
A-14 次の記述は、短波帯の送信機におけるTVIを避けるための対策について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
送信機各部のシールド及び接地を完全にする。
終段の同調回路とアンテナ結合回路との間を疎結合にする。
電源を通して電灯線に電波が漏れないよう、電源線に高域フィルタを挿入する。
電信送信機のキークリックや電話送信機の過変調が生じないようにする。
送信機とアンテナとの間に高調波防止用の低域フィルタを挿入する。

 TVIやBCIの原因と対策に関する問題は、形や選択肢を変えて多く出題されています。実際、1アマで1kWで運用しようとなれば、ことに都市部では、ここで問題で出されているような知識だけでは不足かもしれません。
 ハイパワーで運用される方はもちろん、QRP専門の方も、ローカル局から「1アマの○○さんなら知っているはず」ということで尋ねられて困らない程度の知識は持っておきませんか。もちろん、このテーマで本が1冊書けてしまうほど広い分野ですから、あくまでも試験に即して、ということにはなってしまいますが。

[1]送信機側の原因その1…高調波

 まずは、送信機側の原因のうち、高調波で現れる現象の切り分けと対策を、私なりにまとめてみました。高調波とは、増幅回路で発生するひずみそのものですから、これを止めるには、ひずみを起こしている原因を取り除くことです。
代表的な現象 考えられる原因と対策
特定のチャンネル(テレビの場合)や周波数(ラジオの場合)に、アマチュア局側の送信時にのみ妨害が入る。妨害が入る周波数は、送信周波数の整数倍に近い [送信段の調整不良]
送信段のバイアス点の調整が不適切で、ひずみが多く生じている場合。バイアス点を調整する
[送信段の励振・負荷過大]
励振レベルが過大の場合、または負荷が重過ぎる場合。励振レベルを下げる送信段の負荷を軽く(アンテナ回路との結合を)する
[キークリック・過変調]
キークリック(電信の場合)や過変調(電話の場合)が生じている場合。キークリック防止回路の挿入や変調度の調整を行なう
[接地インピーダンスが高い]
接地抵抗が大きい、あるいは接地線が細い、又は長い場合。接地抵抗を下げるため、接地線に太い網線を用いる、深掘接地を複数行なう
[シールドが不完全]
送信機に開く穴、ケーブル類など伝送路上に無視できない大きさの穴がある場合。穴を塞ぎ、シールドを厳重にする。接地抵抗の低い接地も有効
[電源線経由で高調波が漏れる]
送信回路と電源のデカップリングが不充分な場合。デカップリングコンデンサやフェライトビーズを電源経路に挿入し、デカップリングする。又は、商用電源ラインにラインフィルタを挿入する
 
 接地やシールド、電源のデカップリングの優先度は、高調波そのものを止めるよりも低いです。対策したけれどどうしても止められない場合にのみ、これらを行ないます。さらに、これでも止まらない場合(妨害の程度が良くはなるが完全になくならない場合)は、低域フィルタ(LPF)の力を借りて、対策します。いずれにせよ、高調波は送信側の責任で止めなければなりません。

[2]送信機側の原因その2…寄生振動

 寄生振動も許可された以外の電波が出ているわけですから、送信側で止めなければなりません。
代表的な現象 考えられる原因と対策
送信周波数の整数倍や整数分の1とは無関係のチャンネル(テレビの場合)や周波数(ラジオの場合)に、アマチュア局側の送信時にのみ妨害が入る [増幅段の入出力が結合]
(一段の利得が大きすぎる等で)入出力が結合して発振している場合。入出力の距離を離すシールドするなどして結合しないようにする、もしくはゲイン配分を見直して多段構成にする
[増幅段同志が不要に結合」
増幅段同士が不要な結合で発振している場合。増幅段ごとにシールドする配置を工夫するなどして結合しないようにする
[増幅回路の構成・素子の選択が不適切]
増幅回路が発振回路になっている、あるいは非線形性で周波数混合回路になっている場合。素子・回路構成、定数を見直して発振器にしない(非線形性を避けるように動作点を変更する等)
[局発等の異常発振]
局発やPLLが本来発振すべき周波数と異なる周波数で発振している場合。水晶発振の場合は水晶から見た負荷(容量)を見直す、あるいは、LC発振の場合はコイルのQや部品配置を見直す
[廻り込み]
高周波がマイク、電鍵、電源等の配線から送信段内部に廻り込みを起こしている場合。送信機から外部に出る電線に基本波に対するフィルタ(コモンモード・ノーマルモードフィルタ等)を挿入する
[機械的振動の影響]
局発などの発振周波数を決めるコンデンサ、コイルが電源トランスなど振動を発する他の部品の影響、あるいは車載機などで外部の振動の影響を受け、発振周波数が変調を受けている場合。振動源の部品から発振部を離す、振動吸収材などで外部振動を遮断するなどの対策を取る
 
 寄生振動は、起こっている原因を突き止めて対策しなければ解決しません。普通、きちんと設計された市販の無線機なら発振器が変な周波数で発振したりすることはないと思います。知識として知っておいて、問題が起きた時はそれを道具にして解析・対策しましょう。

[3]送信機側の原因その3…低調波

 低調波による問題もめったに起こるものではありませんが、知識として知っておいた方がよいでしょう。
代表的な現象 考えられる原因と対策
特定のチャンネル(テレビの場合)や周波数(ラジオの場合)に、アマチュア局側の送信時にのみ妨害が入る。妨害が入る周波数は、送信周波数の整数分の1に近い [増幅・逓倍段間の不要な結合]
逓倍段の入力が、本来の入力(前段の出力)以前の信号と結合している場合。各段にシールドを施す等して結合を防止する他、同調回路のコイルのQを高くして目的周波数以外に感度を持たない回路にする
[シールドが不完全]
送信機に開く穴、内部から引出された電線類などから逓倍段以前の電波が外部に漏れる場合。シールドを厳重にする、あるいは、外に出すケーブルにはフェライトコア(コモンモードフィルタ)を入れる
 

[4]受信側で防がなければならない場合

 次に受信側(テレビ・ラジオ・その他電子機器)の対策を考えてみます。本来、電子機器は電波を受ける目的の機器であれ、それ以外の機器であれ、外からの電波を受けて目的電波が受信できなくなったり、誤動作しないように設計します。しかし、これも程度問題で、至近距離で1 [kW]も出されて問題のない機器はそうはありません。(なので[受信側に原因がある]といいたいところですが、その機器の所有者が他人の場合は、絶対に言ってはなりません。相手にしてみれば、「お前が(機器の許容範囲を超えた)強い電波を出すのが原因だ」という言い分が成り立ち、しかもそれが正しいからです。)
 このような場合は、問題を起こしている機器に追加的に対策して妨害排除能力を高めるか、最悪、送信側で電力を落とすかアンテナを高くする(距離を稼ぐ)かして、対策しなければなりません。
 ハイパワー局の場合、よほどの高いタワーと広い敷地で運用できる恵まれた環境でない場合は、このような受信側での混変調の問題が大半を占めるのではないかと想像しています。

代表的な現象 考えられる原因と対策
チャンネル(テレビの場合)や周波数(ラジオの場合)に無関係に、アマチュア局側の送信時にのみ妨害が入る。本来、電波を受信する機能がない機器(電子オルガン、インターホン、CD・DVDプレイヤー)にも発生することがある [受信段のノーマルモード入力過大]
TVやラジオなどの「電波を受ける機器」に発生する障害で、アンテナを外すと止まる場合(その1)。TVやFMの75 [Ω]の同軸ケーブルでいうと、芯線と網線間に発生する基本波が過大で、妨害が起きる場合。アンテナと受信機間に放送波のみを通過させるフィルタ(周波数関係によりLPF,HPF,BPFのいずれか)を挿入する。フィルタのGND側の接地が重要
[受信段のコモンモード入力過大]
TVやラジオなどの「電波を受ける機器」に発生する障害で、アンテナを外すと止まる場合(その2)。TVやFMの75 [Ω]の同軸ケーブルでいうと、芯線・網線とGND(大地)間に発生する基本波が過大で、妨害が起きる場合。アンテナ回路にコモンモードフィルタ(一般にはフェライトコア)を挿入する
[電源(ACライン)からの廻り込み]
障害発生機器にAC電源から基本波が廻り込む場合。電源にコモンモード、ノーマルモードのフィルタを挿入する
[直接飛び込み]
障害発生機器の筐体内の基板やケーブルに直接基本波が飛び込んで妨害を起こす場合。内部に手を入れることが可能ならば、装置のシールドを強化する、あるいは、大地に接地する、ケーブルにはフェライトコアを挿入する

 上記の対策でもダメなら、アンテナと妨害を受けている機器の距離を離す(一般にはアマチュア局側のアンテナを移動させる、高くする)などの対策となります。
 以下はあくまでも「試験対策」ですが…この手の選択肢で「結合を密にする」や「同調回路のQを低くする」といったものが正解になることはまずありません。なぜなら、結合を密にしなければならないのはエネルギー伝達効率が最重要であるトランスくらいで、増幅回路では結合が疎過ぎてもエネルギーが伝達されませんが、密ならばいいかというと、弊害の方が多いからです。
 また、同調回路でQを低くすれば、選択度が下がり、本来同調回路が持っている「必要以外の周波数成分を通さない」という機能が損なわれる方向に動作するからです。

それでは、解答に移ります。
 …シールドや接地を完全にするのは、送信側での対策の基本です
 …疎結合だと、負荷が軽くなってひずみが減りますので正しい対策です
 …電源にHPFを入れたら、電源電流が通らないので誤った対策です
 …キークリックや過変調を起こさないのは、送信側での対策の基本です
 …LPFを入れるとアンテナから出る高調波が減少するので、正しい対策です
となりますから、正解(誤った選択肢)はと分かります。