□ H18年12月期 A-08  Code:[HD0106] : OTLプッシュプル回路を用いた低周波電力増幅回路の動作と特徴
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1812A08 Counter
無線工学 > 1アマ > H18年12月期 > A-08
A-08 次の記述は、低周波電力増幅回路の原理図について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
(1) 図の回路は、出力トランスを使わないですむように工夫されており、OTLプッシュプル回路又はSEPP回路と呼ばれる。特性のそろったNPN形とPNP形のトランジスタが用いられているため、[A]回路とも呼ばれる。
(2) 図の回路をB級で動作させるときは、トランジスタの入力特性の非線形による[B]ひずみを除去するために、二つのトランジスタをそれぞれ順方向にバイアスして、無信号状態においてわずかに[C]電流が流れるようにしている。

ダーリントン クロス
オーバー
コレクタ
ダーリントン 第二高調波 ベース
BTLPP クロス
オーバー
エミッタ
コンプリ
メンタリ
第二高調波 コレクタ
コンプリ
メンタリ
クロス
オーバー
ベース
問題図 H1812A08a
Fig.H1812A08a

 低周波増幅回路の問題です。無線機の音声出力段だけでなく、オーディオアンプなどもこの形になっていることが多いです。

[1]基本はエミッタフォロワの組合わせ

 原理的な動作は、Fig.HD0106_aのようになります。問題文にもあるように、この回路にはトランスが不要です。ついでにいうと、結合コンデンサも必要ありません。直流から増幅できます。
Fig.HD0106_a 交流入力に対するSEPP回路の動作
Fig.HD0106_a
交流入力に対するSEPP回路の動作
 その理由は、この回路が入力の正負の振幅に対して、対称に動作するからです。入力が正に振れているときは、Fig.HD0106_aの赤矢印の経路で電流が流れ、負に振れているときは青矢印のように流れます。
 この回路の名称をSEPPというのは、Single End Push Pull、つまり、入力がシングルエンド(差動ではない)で負荷に電流が交互に流れるためで「プッシュ(押し)プル(引き)回路」と呼ぶわけです。
 問題文の図では、両トランジスタのエミッタがGNDに接続されているので、エミッタ接地と思いがちですが、この回路はエミッタフォロワ(コレクタ接地)です。
 実際にこの回路を設計する時に、理想的に動作させるためには、条件が最低でも2つあります。

[2]特性の揃ったトランジスタペア、コンプリメンタリペアを使う

 上下で対称な回路になるためには、トランジスタの特性が揃っていなくてはなりません。揃っていないと、入力の正側と負側で出力波形が異なってしまうことになりますから、歪が生じます。デバイスメーカ側では、この用途に応じてPNPとNPNで、特性が良く似たトランジスタを開発し、コンプリメンタリ(相補)ペアとして販売しています。
 そのペアの型番は、トランジスタのデータシートを見ると、出ています。例えば、2SC5949という東芝のオーディオ用パワートランジスタのデータシートには「2SA2121とコンプリメンタリになります」と書いてあります。
 なお、ここで示された例はバイポーラトランジスタですが、FETにも同様の考え方で回路が構成でき、コンプリメンタリペアが存在します。

[3]クロスオーバ歪をなくすAB級増幅

 Fig.HD0106_aにあるような回路は、入力にはバイアスがかかっていません。従ってB級増幅に近い動作(コレクタ電流が少しでも流れ始めるVbeまでバイアスを持ってくるのがB級だが、ここは全くのノーバイアスだから)ですがこの方式では、Tr1からTr2に切り替わる時やその逆の時に「クロスオーバー歪み」と呼ばれるひずみが生じます。
 Fig.HD0106_bがそのひずみを説明した図です。トランジスタのVbe対Ic特性は、Vbeが小さいところでは直線になりません。なので、入力が小さい振幅の時は、この回路は非線形回路であり、出力は赤い線のように小振幅の部分で歪みます。これがクロスオーバーひずみです。
 小振幅でもこの特性を直線にしてやるためには、上下それぞれの回路にベースバイアスを加え(ベース電流をわずかに流し)、無信号時にも少しコレクタ電流が流れるように(Vbe対Icの青の点線)してやります。こうすると、合成した特性が青の実線のようになり、出力にクロスオーバーひずみがなくなります。
Fig.HD0106_b クロスオーバひずみの発生原理
Fig.HD0106_b
クロスオーバひずみの発生原理
 但し、この方法では入力がゼロの時にも、負荷には流れず、2つのトランジスタ間を流れる電流があるので、効率という点では下がります。
Fig.HD0106_c AB級のSEPP回路
Fig.HD0106_c
AB級のSEPP回路
 実際の設計では、Fig.HD0106_cのように、PN接合ダイオードを入れて、その順方向電圧Vf分だけベース電位を浮かせ、バイアスをかける方法を用います。トランジスタのVbeもPN接合ですから、トランジスタがONし始める電圧とほぼ同じ電圧0.6〜0.7 [V]がバイアスとして加わることになります。このように無負荷時のコレクタ電流を最大出力電流の半分にするようなベースバイアスの掛け方を、AB級増幅回路といいます。
 この方法でも、VbeとVfが全く同じにはならないことや、両者の温度係数の差から、熱暴走が生じたりするため、実際の回路はもっと複雑なものとなります。

それでは、解答に移ります。
 …この回路はコンプリメンタリ(相補)回路とも呼ばれます
 …この回路で発生するひずみはクロスオーバーひずみです
 …無信号時に電流が流れるようにするのはベース電流です
となりますから、正解はと分かります。