□ H20年08月期 A-11  Code:[HD0701] : トランジスタを用いた周波数逓倍回路の動作。C級増幅と歪と高調波の関係
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09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2008A11 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年08月期 > A-11
A-11 次の記述は、トランジスタを用いる周波数逓倍器の動作原理について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
 エミッタ接地増幅器を、ベース・エミッタ間電圧対コレクタ電流特性曲線のコレクタ電流の遮断点より更に深いバイアス電圧を加え、[A]増幅として動作させると、コレクタ電流の波形のひずみが[B]なり、コレクタ同調回路を励振周波数の[C]の一つに同調させて、必要な周波数を取り出すことができる。

A級 大きく 高調波
A級 小さく 低調波
C級 大きく 低調波
C級 小さく 低調波
C級 大きく 高調波

 中学の頃、電話級の講習会を受けた時に、「周波数逓倍段=C級増幅」と念仏のように理論も分からず覚えていました。高校も終わりごろになって、「ひずみ=高調波」という関係を知って、「目からウロコ」だった記憶があります。

[1]B級増幅とは?

 いきなり最初にB級ですが、これ以後、トランジスタ回路でエミッタ接地のものを考えて下さい。他の方式でもA〜C級の区別はありますが、エミッタ接地が一番ポピュラーだと考えたためです(深い意味はありません)。
Fig.HD0701_a B級増幅の動作曲線とその特徴
Fig.HD0701_a
B級増幅の動作曲線とその特徴
 最初にB級をとり上げたのは、この方式は、「ベースバイアスをかけない」方式だからです。つまり、Fig.HD0701_aのように、トランジスタ回路の入出力特性(普通はVbe対コレクタ電流Ic)中で、入力側(ベース)にバイアスをかけませんから、入力が交流だとすると、負の側に振れる部分は出力には出てきません
 また、Vbe−Ic特性には、beの小さな部分ではIcがほとんど流れない電圧範囲がありますから、出力波形の低振幅部分にはひずみが生じます。従って、出力波形はFig.HD0701_aの真中のような形になります。
 この方式では、バイアスがゼロですので、入力が無い時はコレクタ電流が流れません。そのため、効率は良いですが、片振幅ですのでひずみは相当大きく、この増幅器の後段には同調回路などで、基本波だけを取り出してやる必要があります。
通常、送信機の終段やオーディオアンプのパワー増幅などでは、負の側の波形も再現するため、「コンプリメンタリ」と呼ばれる特性の揃ったPNPトランジスタとNPNトランジスタをペアにして、「プッシュプル」という形式で忠実な波形を再現します。
 また、低振幅領域のひずみも、AB級という方式で、わずかにバイアスをかけてやることで解消できますので、ひずみと電力効率のバランスを取ったアンプが設計可能です。

[2]C級増幅とは?

 次に述べるのは、負バイアスをかけるC級増幅です。「負バイアス」というのは、Fig.HD0701_bの左にあるように、入力バイアスをトランジスタの動作点より低いところに持ってくることを言います。
Fig.HD0701_b C級増幅の動作曲線とその特徴
Fig.HD0701_b
C級増幅の動作曲線とその特徴
 このようにすると、B級ではかろうじて半周期分の出力が得られたものの、この方式ではそれ以下の出力しか得られません。
 信号が無い時はもちろん、少々の振幅では動作が始まりませんから、「効率」という点では他に比べて最も高くなります。ところが、副作用として、見ての通り、出力波形は入力のそれと比べて似ても似つかないものになります。即ち、ひずみが非常に大きいということで、通常、C級増幅は逆にこれを利用してひずみ(=高調波)を得るために使われます。効率が良いので、送信機の終段にも用いられますが、高調波の発生には十分対策を取らなくてはなりません。
 ちなみに、振幅の形そのものが信号として意味を持つAM(A3E)波やSSB(J3E)波では、歪んでしまっては用をなさないので、終段にはC級増幅器は用いません。逆に、変調波の周波数に信号を載せるFM(F3E)系の電波には、高調波さえ除去できればいいので、効率の点でC級増幅が用いられます。
 さて、信号を増幅するのに、そんなにひずませてもいいのか?と思いますね。後にも書きますが、入力が正弦波だったとすると、信号がひずむこと=高調波が混ざって出ること、なのです。だから、周波数逓倍回路のように高調波をたくさん得たい回路では、C級増幅を用いて、後段に設けた同調回路などで高調波だけを取り出すのです。

[3]A級増幅とは?

 A級増幅、というのは、入力信号の全周期においてトランジスタの動作点を上回るように十分に多いバイアス電流を流した回路を言います。
Fig.HD0701_c A級増幅の動作曲線とその特徴
Fig.HD0701_c
A級増幅の動作曲線とその特徴
 Fig.HD0701_cのように、入力信号の振幅より大きなバイアス電圧をかけておけば、入力が−いっぱいに振れても、コレクタ電流が途切れることはありません
 この方式は、入力信号を、トランジスタの特性の直線部分を使って全周期にわたって出力しますから、ひずみが非常に少なく、「きれいな」増幅が行なえます。
 その代わり、入力がない時も大きなバイアス電圧によって、コレクタ電流が流れ続けますから、パワーアンプなどでは出力がないのに猛烈に発熱します。つまり、効率は非常に悪いのです。
 効率が悪いですから、無線機の終段ではまずお目にかかることはありません。ひずみを極端に嫌うオーディオマニアの間では、「いくら発熱しようがこれ以外に考えられない」という回路です。

[4]波形のひずみと高調波の関係

 さて、C級のところで、信号がひずむこと=高調波が混ざって出ることだ、と書きました。これはどういうことなのでしょうか? ひずみを起こす増幅器に、きれいな正弦波を入れた時、出力には元の正弦波の周波数の整数倍の成分が含まれている、ということです。1.5倍やπ倍の成分がなぜ出てこないのか、は、相対性理論において「光速がなぜ不変なのか」と問うことくらい(私にとって)謎です。
 このことは、本来なら「フーリエ変換」という数学的根拠を元に「証明」すべき問題ですが、数学だけやっても無線技術のレベルが上がるわけではないので、「証明」はやめて、本質(結果)だけを述べることにしましょう。(早い話が、知識が不足で「分かりやすい説明」ができません。)
 増幅器入力として、ひずみがない周波数f1の正弦波を入れたとします。この時、理想的なA級増幅器であれば、その出力の周波数スペクトルは、Fig.HD0701_d上段のように周波数f1だけの一本の線スペクトルで表されます。実際のA級増幅器では、理想的なものはなく、わずかにひずみます。
 同じ正弦波を、B級増幅器に入れたらどうなるでしょう? それを示したのがFig.HD0701_d中段の図です。今度は、出力にf1だけでなく、その整数倍の周波数である、f2,f3,f4…という成分が観測されます。高調波の次数が高くなるにつれて、一般にその成分は減少します。送信機の終段に用いる場合は、後段の同調回路やLPFで基本波のみを取出します。
 さらにC級増幅回路ではどうなるでしょうか? ひずみ=高調波成分はもっと増加して、Fig.HD0701_dの下段のようになります。高次の高調波成分がさらに増すので、逓倍器として用いるには都合がいいのです。増幅器として用いる場合は、B級と同じですが、逓倍器の場合は必要な高調波周波数に合わせた同調回路やBPFなどで取り出します。
 ちなみに、波形のひずみは増幅器の級だけでなく、大振幅の入力を入れたために波形の頭がクリップされたりしても起こります。
Fig.HD0701_d 増幅方式と高調波の関係
Fig.HD0701_d
増幅方式と高調波の関係
 つまり、単一周波数の正弦波以外は全て「ひずみ波」ということになります。

それでは、解答に移ります。
 …周波数逓倍に用いるのは、ひずみの多く発生するC級増幅です
 …ひずみを大きくして、効率よく高調波を発生させます
 …逓倍器では目的の次数の高調波に同調させて取り出します
となりますから、正解はと分かります。