□ H20年12月期 A-13  Code:[HE0404] : SSB送信機の終段電力増幅回路の回路図。回路の構成や各部品の働き
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2012A13 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年12月期 > A-13
A-13 次の記述は、図に示すSSB(J3E)送信機の終段電力増幅回路の原理的な構成について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
問題図 H2012A13a
Fig.H2012A13a
この回路は、バイポーラトランジスタを用いたエミッタ接地(共通エミッタ)形増幅回路である。
図中のCNは、中和用コンデンサであり、増幅回路が安定に動作するように調整される。
図中のRFCは、高周波インピーダンスを高く保ち、直流電源回路へ高周波電流が漏れることを阻止するためのものである。
図中のLR並列回路は、寄生振動防止用の回路である。
トランジスタの動作点は、C級動作となるように図中のバイアス電源VBにより設定される。

 電力増幅回路はよく出題されます。リニアアンプを作ったことのある方なら、各部品の働きや回路形式(何級増幅か)などは比較的簡単に分かるのではないでしょうか? リニアの製作なんてやったことないよ、という方も難しい理論はさておき、回路形式と部品の働き程度ならそんなに難しくありません。

[1]SSB送信機の終段回路に、大きなひずみは許されない

 教科書などには「SSBの電力増幅にはひずみの多い増幅方式は使えないのでC級は使えず、B級やAB級増幅器を使用する」などと書かれています。間違いではありませんが、「どうして?」と突込みどころがいくつかあります。まず、なぜ「使えない」のか? 何をもって「使えない」と言っているのか。それから、ひずみが少ないならA級だって良いはずなのに、なぜB級やAB級なのか?

 答える順序が逆になりますが、まず、なぜA級が使われないのか?という点です。これは比較的簡単で、電力増幅段では効率を重視します。ひずみは少なくてきれいな電波が出せるA級増幅は電力効率が非常に悪いので、200 [W]の空中線電力を得るのに、四捨五入するとキロワット近い電力をぶち込まなくてはならないでしょう。100 [kW]オーダーで出力する中波放送局などではもっと深刻です。なので、ひずみの少ない電力増幅には、ひずみは少し妥協しても電力効率の良い、B級又はAB級が用いられるのです。

 次に、なぜひずんではいけないのでしょうか? SSBだけでなく、AM(A3E)も電力増幅段より手前で変調を掛ける低電力変調では、電力増幅段でのひずみを避けるため、B級又はAB級が用いられています。
 実は、搬送波に変調を掛けるということは、一定の周波数と振幅を持った搬送波の波形をひずませることに他ならないのです。その「うまくひずませたもの」が変調波なので、変調器から出た出力を、その後段でひずみのある増幅器で「余計な成分」を加えてしまうと、本来望む(アンテナからの電波としての)出力波形が得られなくなってしまうからです。
 変調波(=搬送波+信号波)に余計な成分を足さないため、これが、SSBでは電力増幅にひずみの多いC級増幅を用いない理由です。

 以下余談です。AMの高電力変調方式では、電力増幅段はC級を用いることができます。これは、電力増幅段が変調器を兼ねるので、ひずみがあっても構わないためです。但し、出力には高調波を多く含みますから、アンテナまでの経路に、厳重な低域フィルタ(ローパスフィルタ)を入れておかなければなりません。

[2]現実にリニアアンプを組む時に考慮すべきこと−各部の働き

 それでは、問題の回路図に入りましょう。実際に高周波アンプを組むとなると、「理想的な動作をしないデバイスや回路」に対して、理想に近づける対処法が必要になってきます。それらを見てみましょう。
Fig.HE0404_a SSB送信機終段回路と各部の働き
Fig.HE0404_a
SSB送信機終段回路と各部の働き
(1) 電源に高周波を廻り込ませない
 Fig.HE0404_aの電源に接続されたインダクタ(コイル)は、回路側から電源へと高周波が回り込むのを阻止するために挿入する、RFCと呼ばれるものです。
 電源からの廻り込みを経験された方はお分かりかと思いますが、電源はいろいろな回路で共通に使っていますから、ある段から漏れ出た高周波信号がその前段に廻り込んだりすることもあります。この場合、増幅回路が発振回路になってしまう可能性があります。
 また、その手前(回路側)にあるコンデンサはデカップリングコンデンサ(又はパスコン)と呼ばれるものです。
 これは、RFCで止められた、行き場の無い交流信号をGNDに逃がすために設けます。言い方を変えると、このコンデンサは電源の交流的なインピーダンスを下げる働きをします。

(2) 寄生振動を発生させない
 コレクタに接続されるLとRがないもの(ショート)として考えてみて下さい。まず、トランジスタのB-C間には、ミラー効果で大きな浮遊容量Csが存在します。一方、出力トランスを介して、コレクタ電源側のRFC(中身はインダクタンスL1)が電源に、また一方で、ベースからは入力トランスを介してRFC(L2)がバイアス電源に繋がっています。
 頭の中に等価回路を書くと、B-C間にC0が、C-E間にL1が、B-E間にL2が繋がっています。これは、まさにFig.HE0404_b右のような発振回路の発振条件ではありませんか?
 L1やL2はインダクタンスが大きい(大きくないと高周波が阻止できない)ので、共振周波数としては低くなります。この発振が起こりにくくするには、コレクタ側に繋がるインピーダンス/L2の比を大きくしてやればいいので、問題図中のRを余分に付けるわけです。
Fig.HE0404_b トランジスタ回路の発振条件
Fig.HE0404_b
トランジスタ回路の発振条件
 上記はRFCのインダクタンスによる低い周波数の発振でしたが、この他にも同じ原理でベース・コレクタそれぞれの配線のインダクタンスによる高い周波数の発振も起こり得ます。この場合は、コレクタに接続するL分を増やしてやれば、発振条件が厳しくなる(発振しにくくなる)ので、問題図中のLを入れます。

(3) 正帰還を中和する
 問題はエミッタ接地回路ですが、この回路では上に述べたようにベース−コレクタ間にミラー効果で大きな容量Csが形成されてしまいます。これが「負帰還」である間はいいのですが、高周波になるとデバイスの動作速度によっては位相が180度回ってしまい、「正帰還」となってしまいます。
 こうなると、発振器になってしまうので、出力トランスのコレクタと逆位相になる側の端子から、CNを介して、正帰還となる電圧を逆位相の電圧で打ち消してしまいます。この動作を「中和」といい、これに用いるCN中和コンデンサといいます。可変コンデンサになっているのは、デバイスのばらつき等で、回路ごとに中和点が微妙に異なるため、調整が必要だからです。

(4) その他の部分の働き
 その他では、入出力のトランスがあります。このトランスは、高周波増幅回路で一般に用いられる50 [Ω]の入出力インピーダンスとトランジスタのインピーダンスを合わせるために設けられます。マイクロ波では、トランスのような巻線は使えないので、基板パターンで作ったLCによりマッチングを取ります。
 また、このトランスには、周波数調整可能な共振回路が組まれていますが、この調整を行なうことで、増幅を行なわない周波数(送信機なら搬送波周波数から離れた周波数成分)では利得を下げることができます。すなわち、周波数選択作用があり、送信機ならスプリアス発射の抑制、受信機ならイメージ混信の低減などに効果があります。

それでは、解答に移ります。
 …図の回路はどう見てもエミッタが接地ですから正しいです
 …CNは中和調整用のコンデンサですから正しいです
 …RFCは電源への高周波阻止の働きですので正しいです
 …コレクタのL・Rは寄生振動防止用ですから正しいです
 …SSB用の電力増幅はB級又はAB級で動作させますから誤りです
となりますから、正解(誤った記述)はと分かります。