□ H20年12月期 A-16  Code:[HF0705] : 受信機の高周波増幅段の相互変調ひずみとインターセプトポイントの説明
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2012A16 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年12月期 > A-16
A-16 次の記述は受信機の高周波増幅回路に要求される条件について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、同じ記号の[ ]内には、同じ字句が入るものとする。
(1) 高周波増幅回路には、使用周波数帯域での電力利得が高いこと、発生する内部雑音が小さいこと、回路の[A]によって生じる相互変調ひずみによる影響が少ないことなどが要求される。
(2) また、高周波増幅回路において有害な影響を与える[B]の相互変調ひずみについては、回路に基本波信号のみを入力したときの入出力基本波特性を測定し、次に基本波信号とそれぞれ周波数の異なる二信号を入力したときに生ずる[B]の相互変調ひずみの入出力特性を測定して、図に示すようにそれぞれの直線部分を延長した線の交点Pを求めると、高周波増幅回路がどのくらい大きな不要信号に耐えて使えるかの目安となる。この交点のことを、[C]ポイントという。

直線性 第2次 インターセプト
直線性 第3次 アクセス
非直線性 第3次 インターセプト
非直線性 第2次 アクセス
問題図 H2012A16a
Fig.H2012A16a

 各社が出している、超高級なHFのリグの受信部は、この問題で問われている、インターセプトポイントが高いのがウリのひとつです。では、そもそもインターセプトポイントって何でしょうか? そこを学んで行きたいと思います。

[1]相互変調…自局とは全く関係のない二波で起こる妨害

 まず、インターセプトポイントの説明の前に、受信機での「相互変調」について調べてみます。相互変調は、以下のような条件で起こります。
  • 自局以外の強力な2周波数の局が現れている
     これらの2局は、全く自局とは関係ない局で、アマチュア以外の局でもあり得ます。両方が強力である場合はもちろん、片方のみが極端に強力であれば妨害は起こり得ます。近くに放送局などがある場合にはこれに当たります。
  • その2局の周波数差が受信周波数や中間周波数にかぶる
     下記で詳細に見て行きますが、これらの2局の周波数の差が、たまたま自分の受信している周波数だったり、中間周波数の帯域内に入ってくると、妨害波として聞こえてくるのです。逆に言うと、自局の受信周波数が妨害の2局の周波数差から外れると、妨害は起こりません
 では、なぜこのような妨害が起こるかも含めて、もう少し詳しく見て行きましょう。
Fig.HF0705_a 相互変調の発生する周波数関係
Fig.HF0705_a
相互変調の発生する周波数関係
 Fig.0705_aに、2つの妨害波の周波数関係の例を示します。1局がfU1もう1局がfU2です。
 この時、受信機の高周波増幅段や、中間周波増幅段が非直線性を持つ(早い話が、ひずみが生じる)と、f21=2fU1−fU2やf12=2fU2−fU1という成分が発生します。これらの成分のことを3次の混変調積といい、両者の振幅の積の3乗に比例します。
 では、2次がなくていきなり3次なのは何故でしょうか?
 2次の成分は|fU1−fU2|やfU1+fU2となって、普通は非常に低周波な成分か高周波な成分なので、問題にならないのです。
 3次が問題になるのは、例えばコンテスト中に、自分が21.200 [MHz]で交信している時、21.300 [MHz]と21.400 [MHz]にローカル局が出てきたようなケースで、各々相当離れているにもかかわらず、自分が交信しているまさにその周波数に、これらの局の混変調積(俗に言う「お化け」)がかぶってくるからです。
 同様に5次や7次といったより高次の成分も存在しますが、一般に強度が弱いため、問題になりません。
 このように3次の相互変調妨害は、自分の受信しようとする周波数のごく近くに発生しますので、中間周波数以降でIFフィルタで落とそうとしても不可能です。これを防ぐには、
  • 必要帯域外の電波を高周波増幅器に入れない
     上の例で見たように、2局ともアマチュア局の帯域内なら無理ですが、放送局や業務局が近くにある場合などは、妨害波が高周波増幅段に入ってこないように、フィルタやトラップを受信機の手前に入れることが有効になります。
  • 増幅段の直線性を良くする
     そもそもの原因が回路の非直線動作にあるので、なるべく直線領域で動作させるようにバイアス点を設計する、等の対策が有効になります。とは言っても、いくら高価な素子を使っても、原理的にゼロにはできません
これもTVIと似ていて、原因となる電波を受けないようにする、もしくは、受けても混変調積の発生量が少なくなるようにする、という2段構えが有効です。

[2]第3次インターセプトポイントとは何か

 それでは、インターセプトポイントの説明に入ります。上で見た、3次の変調積と受信波の強度と、検波出力の強度の関係を考えてみましょう。
 受信信号や妨害の元となっている信号(2波)そのものは、入力に対して検波出力は比例します。言い方を変えると、受信機は入力の電波に対して比例した検波出力を得るための機械です。
 一方、希望しないのに発生してくる3次の相互変調ひずみは、妨害の元となっている2信号の積の3乗に比例します。3乗ですから、それらの信号が弱い時は問題なくても、大きくなるにつれて急激にレベルが上がってきます。
 これをグラフにしたのが、Fig.HF0705_bです。このグラフは両対数ですので、直線部分の傾きが次数(乗数)になります。
Fig.HF0705_b 3次のIMDとインターセプトポイント
Fig.HF0705_b
3次のIMDとインターセプトポイント
 受信波が傾き1であるのに対して、3次の相互変調ひずみの成分は傾き3です。受信信号が弱い時は、相互変調ひずみのレベルは低いので、信号から妨害波までの垂直方向の距離(両対数グラフ上の距離は、両者の比を表します)は大きいのですが、信号が強くなるにつれ、両者は接近し、どこかで交点を持つはずです。
 そして、その交点では、信号波と妨害波(3次の混変調ひずみ成分)が同じ検波出力で現れる点、ということになります。このP点を、第3次インターセプトポイント(3rd intercept point)と言うのです。
 実際には、こんな強い入力を入れると受信機は飽和してしまうので、出力は頭打ちになってしまいますが、「もしそのまま1次(受信信号)と3次(相互変調成分)の関係を保って増幅したら」と考え、弱い入力レベルでの測定値(直線)を延長して交点を求めるのです。
 また、ひずみの発生レベルが違う受信機を持ってきて比較すると、Fig.HF0705_bの中の赤色の線と茶色の線のようになります。赤の方が、相互変調に弱い(ひずみが多い)受信機、茶色が相互変調に強い(ひずみの少ない)受信機です。
 これを見て直感的に分かるように、ひずみの少ない受信機の方が、交点P2がひずみの多い受信機のそれP1より上になりますから、「(第3次)インターセプトポイントが高い」と言います。

[3]増幅回路のひずみとは何か?

 最後に、相互変調の原因となる、増幅回路のひずみとは何でしょうか? 増幅回路にひずみがあるというのは、簡単に言うと、入力と出力の波形が完全に相似形になっていない、ということです。
 非線形性があると、入力にf1とf2の周波数の正弦波(f1>f2)を入れた時に、2f1、2f2、f1±f2(2次)や3f1、3f2、2f1±f2、f1±2f2(3次)などの成分が出てくる、ということです(詳しい説明は数式が必要になるのでやりません)。
 これを積極的に利用して、リング回路やC級増幅回路など非線形性の大きな回路で、高次の成分を取り出すのが逓倍器や周波数変換器です。逆に、普通の増幅回路ではこの成分があっては困るわけです。ですが、現実にはどんな高価な素子を持ってきてもひずみゼロの増幅回路は存在せず、これらの混変調積や高調波の成分はなくなりません
 そのため、対策としては上に書いたように、主に、妨害となる原因の信号を十分減衰させ、目的波のみを増幅するようにするか、(十分に設計された回路では困難ですが)増幅回路自体のひずみを減らすかの2つ、ということになります。
 この第3次のひずみは、トランジスタなどの増幅素子ばかりでなく、高周波スイッチングに使うダイオードや、はては抵抗・コンデンサの受動素子に至るまで、多かれ少なかれ発生します。そのため、冒頭に述べたICOMの受信機などでは、アンテナから入ってきたすぐのところで、受信周波数に追随して通過帯域と中心周波数が可変になるような、できるだけ受動素子だけで組んだフィルタを設け、高周波増幅段に「自分が受信したい高周波信号」以外を徹底して除去して渡すようにしています。

それでは、問題に移ります。
 …相互変調ひずみは回路の非直線性が原因で生じます
 …相互変調ひずみで最も問題となるのは第3次の相互変調ひずみです
 …基本波と3次のひずみの交点はインターセプトポイントです
となりますから、正解はと分かります。