□ H29年04月期 A-15  Code:[HF0602] : スーパーヘテロダイン受信機の周波数選択度の向上方法
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H2904A15 Counter
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A-15 次の記述は、スーパヘテロダイン受信機の中間周波増幅器について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
(1) 中間周波増幅器の同調回路の帯域幅は、同調回路の尖鋭度Qが一定のとき、中間周波数を[A]選ぶほど広くなる。
(2) 中間周波増幅器の同調回路の尖鋭度をQ、帯域幅をB [Hz]、中間周波数をf0 [Hz]とすると[B]の関係がある。
(3) 近接周波数選択度は、同調回路の尖鋭度Qが一定のとき、中間周波数を[C]選ぶほど向上させることができる。


高く Q=f0/B 低く
高く Q=B/f0 低く
高く Q=f0/B 高く
低く Q=B/f0 高く
低く Q=f0/B 高く

 スーパーヘテロダイン方式の選択度に関する問題は、近接周波数によるものと、影像周波数のよるものが、よく出題されます。この問題は近接周波数混信に対する選択度を対象にしています。中間周波増幅器の段間に設けられている同調(=共振)回路のQと、共振曲線についてよく理解しておきましょう。(解説原稿の都合上、影像周波数の内容も含まれますが、読み飛ばしてもかまいません)

[1]近接周波数混信と影像周波数混信

 ここで問われているのは両方ですが、まずは「近接」と「影像」について、どちらがどんなものか、簡単に復習しておきましょう。
  • 近接周波数混信
    受信したい信号(希望波)と妨害波が近い周波数にあるために起こる混信
  • 影像周波数混信
    希望波と中間周波数の差と、妨害波と中間周波数の差がほとんど同じになるために起こる混信。希望波と妨害波とは周波数的には近くない
 これらは、全く性質の異なる混信で、後にも書きますが、対策がトレードオフになる部分もあります。性質の違いをよく理解しておくことが必要です。ちなみに、影像周波数混信はヘテロダイン方式の受信機にのみ特有の混信です。
 近接周波数混信に関する問題は、「近い周波数にある混信をいかに取り除くか」を考えればよいわけです。

[2]影像周波数混信とその除去

 まずは、影像周波数混信(いわゆるイメージ混信)がなぜ起こるのか、確認しておきましょう。いろいろと周波数が出てきますから、それぞれの周波数の高い低いの関係をよく掴んで下さい。
 Fig.HF0602_aに、スーパーヘテロダイン方式のブロック図と各周波数の高低の関係を挙げます。
 高周波増幅段(以下、RF段)は通常アンテナから入ってきた信号をそのまま増幅します。周波数に変化はありません。局発(局部発振器、以下、LO)では、受信したい周波数fRとの差の絶対値が中間周波数fiになるような周波数fLを発生します。
 RF段の出力とLOの信号とを周波数変換部(混合器、ミキサ)に加えると、両者の和(fR+fL)と差(の絶対値|fR−fL|)の周波数が同時に得られます。このうち、和の周波数は、使わないものとします。
 変換部の出力が一定の周波数fiになってくれないと、後段で処理(検波など)ができないからです。中間周波数増幅段(以下、IF段)は、fiにのみ選択性を持たせた増幅段です。これ以外の周波数はフィルタでカットしてしまいます。すると、
 fL−fR=fi …(1)
の関係が成り立つ入力信号fRが受信機から聞こえてくることになります。
 ところが、このままでは不都合が生じます。今、アンテナには希望の信号fRと同時に、
 fU=fL+fi …(2)
Fig.HF0602_a 影像周波数混信の起こる原理
Fig.HF0602_a
影像周波数混信の起こる原理
となる信号fU(但し、fL<fU)が入感していたとしたらどうでしょうか。(2)式を変形すると、
 fU−fL=fi …(3)
が成り立ちますから、これも、ミキサの出力としては希望の信号fRと同じ周波数になり、IF段で増幅されてしまいます。このfUの信号を、「妨害波」と呼ぶことにします。
 簡単に書くと、これがイメージ混信の起こる原理です。この現象は数式で説明できる原理的なものであって、高価な素子を使ったからといって防げるものではありません

 では、イメージ混信を取り除くにはどうしたらよいでしょうか? IF段の入力に高価な狭帯域フィルタを入れても防げません。妨害波と信号波はIF段に入ってくるところで、同じ周波数だからです。もう一度式(1)と式(3)をよく見てみましょう。両者を加算すれば、
 fU−fR=2fi …(4)
です。これは上図のグラフを見ても、直感的に分かります。
 アマチュアの場合、周波数の指定がバンドなので、RF段はIF段に比べて広帯域に設計しますが、そのためにイメージ混信が発生しやすいわけです。ならば、(4)式から、iを高く取ったらどうでしょう? こうすれば、妨害波fUと信号波fRは周波数が離れてくれます。Fig.HF0602_a下段右のグラフでは、fiを2倍に取り、RF段の帯域を狭くしたケースを想定しています。このようにすれば、イメージ混信を起こす周波数の信号はRF段で増幅されなくなりますから、除去することができます。
 要するに、中間周波数を高く取って影像周波数を高周波増幅の帯域外に出してしまうことで、影像周波数混信を避けよう、というわけです。このため、中間周波数を高く取ることが影像混信の解決策の一つとなります。

[3]中間周波数の高低と選択度の関係

 ここからは、近接周波数混信について調べます。
 まず、中間周波数の高低と選択度について考えてみます。
 今、21.300 [MHz]に受信したい信号があり、21.305 [MHz]に妨害波があるとします。わずか5 [kHz]しか離れていませんから、いわゆる「サイドがバサッと切れるフィルタ」でないとバリバリいって取れません。後にも述べる「スカート特性」(シェープファクタとも言い、帯域外の信号をどれだけ減衰させられるかの指標)のよい帯域外減衰特性が必要になります。
 中間周波数が8.83 [MHz]だとすると、中間周波増幅段で分別すべき周波数は、8.830 [MHz](信号波)と8.835 [MHz](妨害波)となります。つまり、8.83 [MHz]に対しての5 [kHz]の差ですから、わずか0.06%の差をフィルタリングしなくてはなりません。
 一方、中間周波数を455 [kHz]とするとどうでしょうか。今度は455 [kHz](信号波)と460 [kHz](妨害波)となります。つまり、455 [kHz]に対しての5 [kHz]の差ですから約1.1%で、この程度ならLCで構成した共振回路でも何とかフィルタリングできそうです。このことは、もっと定量的には以下のように説明されます。
 フィルタ回路を構成するのは、共振回路です。LCだけではなく、クリスタルや表面弾性波フィルタでも等価回路は共振回路です。共振回路のQは中心周波数をf0、中心周波数の信号電圧の1/√2となる周波数をそれぞれf1,f2(但し、f1<f2)とすると、次式で表されます。
 Q=f0/(f2−f1) …(1)
これを変形すると、
 f2−f1=f0/Q …(2)
となります。
Fig.HF0602_b 共振回路が持つ周波数選択効果とQ
Fig.HF0602_b
共振回路が持つ周波数選択効果とQ
 この式の意味するところは、Qが同じで中間周波数(=中心周波数f0)が異なる2つのフィルタがあるとすると、通過帯域f2−f1の幅は、f0に比例するというものです。普通、通過帯域の幅はSSBかCWかなど、信号の種類によって決まり、中間周波数に左右されるものではありません。この観点(通過帯域幅=f2−f1=一定)からみれば、(2)式の意味は「中間周波数を高く取りたければ、それにつれてQも大きくせよ」ということになります。
 先の例で簡単に計算すると、-3dB帯域幅が3 [kHz]のフィルタを実現するのに、中心周波数が8.83 [MHz]なら、Qは約2940も必要ですが、455 [kHz]なら約152で済みます。
 このことから、小さなQでも通過帯域を狭く取れる、低い中間周波数が有利であることがわかります。
 いろいろなリグやオプションのフィルタ類をご検討されたことのある方ならお分かりかと思いますが、フィルタの特性のうち、-6 [dB]の通過帯域幅f6と-60 [dB]の通過帯域幅f60の比f60/f6シェープファクタといい、1よりも大きい値になりますが、1に近いほど-60 [dB]での帯域幅が-6 [dB]での幅に近いことを意味しますから、帯域外での減衰傾度(いわゆるスカート特性)が良好であることを意味します。

 この問題とは別に、影像周波数混信に対しては、中間周波数は高い周波数の方が有利です。これに関する選択肢も出てきますから、どちらがどうだったか、頭の中でこんがらがってしまわないよう、原理から理解した方がいいでしょう。

[4]中間周波トランスのQと帯域の関係

 次に、中間周波トランス(中間周波変成器。以下、IFTと書きます)のQについて考えてみます。
Fig.HF0602_c 同調回路(IFT)のQと帯域幅
Fig.HF0602_c
同調回路(IFT)のQと帯域幅
 IFTはFig.HF0602_c上のような構成になっているのが普通です。実際は共振周波数調整のため、コアの出し入れができたり、コンデンサがトリマになっていたりしますが。
 この回路の共振特性はIFTの左にあるグラフのようになっています。この図から、選択度を高めるには、この山の形を鋭くすること、すなわち回路のQを大きくすればよいことがわかります。
 ところが、共振回路に並列に抵抗を入れると、Qが下がってしまいます(Fig.HF0602_c下)から、通過帯域が広がってしまいます。
 普通こんな設計はしません。また、クリスタルフィルタやメカニカルフィルタは、水晶や金属片の電気機械現象の共振を利用していますが、この共振のQは非常に大きく、選択度の高い(シャープな)フィルタを構成することができます。
 関連した余談ですが、中間周波トランスは、結合度の調整でも伝送する帯域を変化させられます。定性的に言うと、結合を密にすると帯域が広くなり、逆に、結合を疎にすると帯域が狭くなります。このような選択肢もあるので、注意して下さい。

[5]中間周波増幅の段数と帯域幅の関係

 最後に、中間周波増幅器の段数について考えてみます。
 中間周波数増幅器の段間は、一般に増幅器の間をフィルタやIFTで結合します。これらは、上にも書いたように周波数選択性を持っていますから、複数接続すると帯域内の信号のみが残って、帯域外の成分はどんどん減衰して行きます。これは、周波数特性がフィルタやIFTの特性の乗算となるからです。
 もちろん回路が複雑化=コストアップしますし、IFTなどには減衰もありますから、よいことばかりではありませんが、近接混信を避ける解としては正解です。
Fig.HF0602_d 同調回路(IFT)の多段化と帯域幅
Fig.HF0602_d
同調回路(IFT)の多段化と帯域幅
 何段も重ねれば、スカート特性(国家試験では「減衰傾度」という用語が使われます)が良くなるのはクリスタルフィルタでもLCフィルタでも同じです。実際、高価なフィルタは多段で構成されています。

それでは、解答に移ります。
 …Qが一定なら、中間周波数を高く取るほど、帯域幅は広がります((2)式で、f0が大きくなれば、幅f2−f1も比例して広くなる)
 …(1)式で、問題のB=f2−f1ですから、Q=f0/Bです
 …Fig.HF0602_bのように、Qが同じなら中間周波数が低いほど減衰傾度が大きくなります

となりますから、正解(誤った記述)はとなります。
 ここでちょっと雑談。共振回路のQというのは、常にQ>1です。Q<1となる共振回路はあり得ません(それは共振回路ではない)。また、中間周波増幅回路の帯域幅Bが、中間周波f0よりも広くなることは、受信機ではまずあり得ません(f0=455 [kHz]の増幅回路の周波数帯域が1 [MHz]!?)から、Bの選択肢はどう考えてもQ=B/f0をすぐさま除外できます。