□ H30年12月期 A-18  Code:[HH0603] : アンテナ電流と放射電力と実効抵抗から、放射抵抗と放射効率の計算
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3012A18 Counter
無線工学 > 1アマ > H30年12月期 > A-18
A-18 1/4波長垂直接地アンテナのアンテナ電流を測定したところ2 [A]が得られ、アンテナの実効抵抗(入力抵抗)及び放射抵抗がそれぞれ44 [Ω]及び36 [Ω]となった。このときのアンテナの放射電力及び放射効率の値として、最も近いものの組合せを下の番号から選べ。ただし、アンテナ系は整合が取れているものとし、整合回路の損失はないものとする。

放射電力 放射効率
144 [W] 68 [%]
144 [W] 82 [%]
176 [W] 68 [%]
176 [W] 82 [%]

 これまで出題されてきた垂直接地アンテナのアンテナの効率の問題は、放射抵抗と放射効率を求める問題でした。今回(H30年12月期)は、放射電力を求める問題が出たので、。改めて収録しました。

[1]アンテナの放射効率とは何か?

 回路などでは、○○効率という言葉がよく出てきます。送信機で、ファイナル段の効率、といえば、高周波出力/ファイナル段の直流入力のことですし、電源の効率といえば、出力電力/入力電力です。
 では、アンテナの(特に接地アンテナの)放射効率、とはなんでしょうか? 簡単に言えば、アンテナに入れた電力のうち、空中に電波となって放射された電力の割合、を言います。
 定義は簡単ですが、実際どうやって決まるのでしょうか? それを考えるにあたっては、Fig.HH0603_aのような、接地アンテナ(ここではλ/4垂直接地アンテナを取り上げました)の等価回路を考えてみます。
 まずは黒く描かれたコイルとコンデンサです。これらは、アンテナの共振現象をモデル化したもので、それ自体はエネルギーを消費しません
Fig.HH0603_a 接地アンテナの動作モデル
Fig.HH0603_a
接地アンテナの動作モデル
 つまり、これらのコイルやコンデンサにエネルギー損失はありません。

[2]アンテナの放射抵抗・接地抵抗・実効抵抗とは何か

 次に、青く描かれた放射抵抗Z0です。これは、空中に電波が出て行く(=アンテナから電力が空間に流れ出す)現象を抵抗で電力を消費するものとしたモデルです。つまり、放射効率の分子はこの抵抗で消費される電力になります。
 その下に接続されている、茶色の導体抵抗ですが、これは、アンテナが導体でできているために、抵抗分を持つことをモデル化したものです。通常、この抵抗はアンテナエレメントが十分太ければ、後に述べる接地抵抗に比べて無視できる大きさですが、厳密には高周波になると表皮効果が出てくるため、全く無視できるか、というとそうでもありません。ここでは接地アンテナを使うのがVHF程度まで、と考えて、一応無視します。
 以上が、同軸ケーブルでいうと、内部導体側に繋がるエレメントのモデルです。
 一方、外部導体側に繋がるのは、赤で描かれた接地抵抗REのみです。接地抵抗は、この場合でいうと、同軸の外側導体と、導体としての地球の間に入る抵抗値です。この値は、直に地面に電極を埋める場合でも数Ω〜数100Ωあるため、導体抵抗と比較して、無視できません。
 実効抵抗とは、放射抵抗と接地抵抗を合成したものです。厳密には導体抵抗も加えます。ほとんどのアンテナの場合、実効抵抗はこれらの直列抵抗になります。

[3]アンテナの放射効率は接地抵抗で決まる

 ここまで分かったところで、このモデルを元に、放射効率を求めてみましょう。まず、着目するのは、エレメント側と接地側に流れている電流の大きさIaが同じであることです。これが異なっているのは、現実にはあり得ますが接地とはまた別の問題です。ここではエレメント側と接地側に流れている電流の大きさはともにIaであるとします。すると、エレメント側で空間に放射される電力Prは、
 Pr=Ia20 …(1)
一方、接地抵抗に電流が流れて発生する電力Pgは、
 Pg=Ia2E …(2)
となります。この電力は、空間に出て行くのでもなければ送信機側に戻るわけでもなく、地中で熱になります。そして、PrとPg以外に供給された電力がなくなってしまう要因はありませんから、アンテナへの高周波入力Ptは、PrとPgの和で表され、
 Pt=Pr+Pg
   =Ia2(Z0+RE) …(3)
と求められます。すると、放射効率η(イータ)は、
 η=Pr/Pt
  =Pr/(Pr+Pg
  =Ia20/(Ia20+Ia2E
  =Z0/(Z0+RE …(4)
という、簡単な形になってしまいました。これを見ると、接地抵抗REがゼロに近い方が効率が高まる、すなわちηが1に近づくことが容易にわかります。つまり、接地アンテナでは、接地をしっかり取らないと、送信機で地球温暖化を促進していることになってしまうのです。
 そうは言っても、接地抵抗はどんなに頑張っても数Ωにするのは大変です。λ/4垂直接地アンテナのインピーダンスが、約36 [Ω]と低いために効率を上げづらいのも事実ですから、接地抵抗が下げられないなら、もっとインピーダンスの高いアンテナを使えばいい、という話にもなります。
 確かに、数式上、それも成り立ちます。エレメントを変えて電圧給電できるようにすればいいのですが、片や50 [Ω]の同軸ですから、給電には、高電圧に耐えられる部品でマッチング回路を組まなければならないので、結構大変です。
 こんなこともあって、一般には接地の不要な水平系のアンテナやがラジアルで済ませられるGPが好まれる傾向にあるのです。

それでは、解答に移ります。
 まず、アンテナ電流Ia=2 [A]と放射抵抗Z0=36 [Ω]が与えられていますから、アンテナから空間に飛んで行く電力(=放射電力)Pr [W]は、(1)式からすぐに求められて、
 Pr=Ia20=4×36=144 [W]
となります。
 一方、このアンテナに入力される全電力Pt [W]は、アンテナ電流Ia [A]と実効抵抗Ze=44 [Ω]が与えられていますから、 Pt=Ia2e=4×44=176 [W]
と求められます。従って放射効率ηは、
 η=Pr/Pt×100=144/176×100≒82 [%]
となりますので、が正解と分かります。