□ R02年12月期 A-05  Code:[HB0703] : フィルタの回路トポロジーと減衰特性のグラフの対応、フィルタの名称の関係
インデックス
検索サイトから来た方は…
無線工学の基礎 トップ

以下をクリックすると、元のページが行き先に飛び、このウインドウは閉じます

 ■ 無線工学を学ぶ
 (1) 無線工学の基礎 
 年度別出題一覧
  H11年 4月期,8月期,12月期
  H12年 4月期,8月期,12月期
  H13年 4月期,8月期,12月期
  H14年 4月期,8月期,12月期
  H15年 4月期,8月期,12月期
  H16年 4月期,8月期,12月期
  H17年 4月期,8月期,12月期
  H18年 4月期,8月期,12月期
  H19年 4月期,8月期,12月期
  H20年 4月期,8月期,12月期
  H21年 4月期,8月期,12月期
  H22年 4月期,8月期,12月期
  H23年 4月期,8月期,12月期
  H24年 4月期,8月期,12月期
  H25年 4月期,8月期,12月期
  H26年 4月期,8月期,12月期
  H27年 4月期,8月期,12月期
  H28年 4月期,8月期,12月期
  H29年 4月期,8月期,12月期
  H30年 4月期,8月期,12月期
  R01年 4月期,8月期,12月期
  R02年 4月期,9月期,12月期
  R03年 4月期,9月期,12月期
  R04年 4月期,8月期,12月期
 分野別出題一覧
  A 電気物理, B 電気回路
  C 能動素子, D 電子回路
  E 送信機, F 受信機
  G 電源, H アンテナ&給電線
  I 電波伝搬, J 計測

 ■ サイトポリシー
 ■ サイトマップ[1ama]
 ■ リンクと資料

 ■ メールは下記まで



更新履歴
2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3212A05 Counter
無線工学 > 1アマ > R02年12月期 > A-05
A-05 次の記述は、図1に示すフィルタ回路について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。なお、二つのコンデンサの静電容量[F]は同一とする。
(1) 図1の回路の減衰(通過)特性は[A]であり、遮断周波数fCは通過域に比べて電圧の減衰量が[B]倍となる周波数である。
(2) 図1の回路のインダクタンスの定数をL [H]、各静電容量の定数をC/2 [F]とすれば、遮断周波数fCは[C][Hz]で表される。


図3 √2
図3 2
図2 √2
図2 2
図2 √2
問題図 H3212A05a
Fig.H3212A05a

 いわゆるπ型フィルタの問題です。問題の回路は、入力・出力に並列にコンデンサが入っていますから、ローパス(低域)フィルタだな、ということが直感的に分かります。直感的でなくても、直列にコイルが入っているので、高い周波数程通りにくいだろう、と考えることができます。

[1]フィルタの4パターンとその性質

 まず、Fig.HB0703_aを見て下さい。ここには、基本的な4パターンのフィルタの通過特性を示しました。通過域、というのは、その範囲の周波数成分を通過させることを意味し、また、阻止域、というのは、その範囲の周波数成分を通過させないことを意味します。
 まずは左上の、低域フィルタ(「ローパスフィルタ」以下LPF)です。このフィルタは、ある周波数(以下、カットオフ周波数という意味でfCと書きます)よりも低い周波数を通し、それより高い周波数を通さない(減衰させる)という性質を持ちます。fCは遮断(カットオフ)周波数とも言います。
 この性質を使うと、HF(〜30 [MHz])のリグから出てくる高調波(100 [MHz]<)がテレビ受信に妨害を起こしていることが分かった場合、リグと送信アンテナの間にfC=30 [MHz]程度のLPFを入れてやれば、高調波はアンテナに到達できませんから、妨害を止めることができます。
 2番目は、Fig.HB0703_a右上の高域フィルタ(「ハイパスフィルタ」以下HPF)です。このフィルタは、ある周波数fCよりも高い周波数を通し、それより低い周波数を通さないという性質を持ちます。
 この性質を使うと、HF(〜30 [MHz])のリグから出てくる基本波がFM放送受信(>76 [MHz])に妨害を起こしていることが分かった場合、FMアンテナとFM受信機の間にfC=70 [MHz]程度のHPFを入れてやれば、基本波はFM受信機に到達できませんから、妨害を止めることができます。
Fig.HB0703_a フィルタの4パターン
Fig.HB0703_a
フィルタの4パターン
 3番目は、Fig.HB0703_左下の帯域通過フィルタ(「バンドパスフィルタ」以下BPF)です。このフィルタは、周波数fC1より高く、fC2より低い周波数を通し、それ以外の周波数を通さない(但し、fC1<fC2)という性質を持ちます。
 この性質をSSB受信機の中間周波(IF=455 [kHz])フィルタに使うと、fC1=453.5 [kHz]、fC2=456.5 [kHz]とすることで、目的とする周波数の信号だけを取り出すことができます。
 最後に、Fig.HB0703_右下の帯域除去フィルタ(「バンドエリミネーションフィルタ」以下BEF)です。このフィルタは、周波数fC1より高く、fC2より低い周波数を通さず、それ以外の周波数を通す(但し、fC1<fC2)という性質を持ちます。
 商用周波数(50 [Hz]や60 [Hz])のハム音を除去したい場合、阻止域を55±10 [Hz]としてやれば、どちらの周波数も除去できることになります。

[2]実際のフィルタの構成法 その1 LPF・HPF

 ここでは、オペアンプを使うようなアクティブなものは扱わず、コイルやコンデンサ、抵抗といった受動素子のフィルタの組み方を調べてみます。(実際のフィルタの設計は、遅延や帯域内リプル、減衰傾度など、非常に難しい制約条件の下に行なわれますが、ここではイメージを掴むため、簡単なものにしています。)まずは、簡単なLPFとHPFです。
Fig.HB0703_b LPFやHPFの構成例
Fig.HB0703_b
LPFやHPFの構成例
 LPFは低い周波数を通し、高い周波数を阻止するのですから、Fig.HB0703_b上のように、入力側にLを直列に持ってきて、出力側にCを並列に持ってくれば、目的を達します。具体的にはfCをいくつにするかを決めたら、LCの値を決めるだけです。
 逆に、HPFは高い周波数を通し、低い周波数を阻止するのですから、Fig.HB0703_b下のように、入力側にCを直列に持ってきて、出力側にLを並列に持ってくれば、目的を達します。直流はもちろんCで阻止されます。
 なお、この図も以下の図も同じですが、特に断らなければ左側の端子が入力、右側の端子が出力とします。
 上の構成例は、その回路の形からL型やΓ型と呼ばれ、LやCの構成要素が2個(2次)のフィルタですが、もっと急峻な特性を得たい場合は、Fig.HB0703_cのように構成要素を追加して、3次とします(もちろん、もっとカスケードにこれを追加して行けば次数は増やせますが、設計は難しくなります)。
 回路の形から、これらはそれぞれπ型やT型と呼ばれます。
 π型の場合、X1がコイルで他がコンデンサの場合に低域フィルタ(LPF)に、X1がコンデンサで他がコイルの場合に高域フィルタ(HPF)となります。
Fig.HB0703_c π型とT型
Fig.HB0703_c
π型とT型
 T型の場合は、この逆です。いずれも、部品1つが増えただけで、その動作原理はL型やΓ型と同じです。
 なお、リアクタンス部分を共振回路にしてしまうと、特定の周波数だけを通したり排除したりできますが、これは後で触れます。

[3]実際のフィルタの構成法 その2 BPF・BEF

 ある幅を持った帯域を、通過させたり阻止したりするBPF・BEFは、LPF・HPFを応用して以下のように構成します。
Fig.HB0703_d BPEやBEFの構成例
Fig.HB0703_d
BPEやBEFの構成例
 BPFはfC1より高く、fC2より低い周波数を通過させます。そのためには、Fig.HB0703_d上のように、最初にカットオフがfC1のHPFを持ってきて、次段にカットオフがfC2のLPFを持ってくれば、総合特性は両者の乗算になりますから、fC1からfC2までの成分だけが通過することになります。
 BEFはfC1より高く、fC2より低い周波数を阻止します。これには、Fig.HB0703_d下のように、カットオフがfC1のLPFと、カットオフがfC2のHPFを並列に接続すれば、総合特性は両者のORになりますから、fC1からfC2までの成分だけが阻止されることになります。

[4]共振回路はフィルタになる

 これまでは、LやCの性質(周波数によってリアクタンス、すなわち電流の通しやすさが異なる)を使ってフィルタを構成してきました。同じLとCからなる共振回路も、特定の周波数でインピーダンスが最小になったり最大になったりするので、フィルタとして使えないでしょうか?
 それを考える前に、簡単に共振回路の復習をしておきます。
 ある、LとCからなる共振回路の共振周波数をfr、共振周波数でのインピーダンスをZとすると、Fig.HB0703_eのように、
□ 並列共振回路…
 frZ最大(∞)=通過量最小
□ 直列共振回路…
 frZ最小=通過量最大
となります。つまり、並列共振回路・直列共振回路をそれぞれ信号経路に入れると、並列では周波数成分frが取り除かれ、直列ではfrの成分のみが出てくる、というわけです。
Fig.HB0703_e 並列・直列共振回路と信号透過量
Fig.HB0703_e
並列・直列共振回路と信号透過量
 取り除きたいor通したい周波数が決まっていて、それ以外とは急峻に区別したい、という場合にもってこいのフィルタです。理想的にはfrの信号成分のみに効果があることですが、共振回路のQ(共振の鋭さを表す)は有限なので、fr近辺の成分も多少出てきてしまいます。逆に考えれば、通過帯域にある程度幅を持たせたければ、Qを下げればよいわけです。
 ただ、帯域を広く取ろうとするあまり、Qの極端に低い共振回路を持ってきてしまうと、大きな減衰(直列なら値の大きな抵抗、並列なら値の小さな抵抗)を入れなければなりませんので、フィルタとしてはロスが大きくなり、現実的ではありません。BPFやBEFで帯域を広く取りたいときは、やはり[3]の方法で構成します。

[5]共振回路の組合せでもっと急峻な特性を得る

  Fig.HB0703_fにこの3つの共振回路をT字型に組合せた回路を示します。上が帯域(通過)フィルタ、下が帯域除去(消去)フィルタです。各エレメントは共振回路を示し、緑の箱が直列、黄色の箱が並列の共振回路を示します(箱の中の「曲線」は透過特性を示します)。
 これらについて、3つの共振回路がそれぞれどのように動作するかを考えてみます。各共振回路の共振周波数はすべて同じで、それをfrとします。
 まず、上の帯域フィルタについてみると、信号線に繋がる2つの共振回路は直列共振なので、frの信号以外に対して高インピーダンスで、A側からB側に抜けられませんが、frの成分のみB側に出られます。
 一方、真中は並列共振回路ですから、fr以外の信号は低インピーダンスでコモン(GND)に落ちてしまいますが、frに対しては高インピーダンスです。
Fig.HB0703_f T形フィルタの原理
Fig.HB0703_f
T形フィルタの原理
 結局、この回路の総合特性としては、A側に入力されfrの成分以外はB側には、非常に通りにくいものの、fr成分は通すようになっています。つまり、特定の周波数(=fr)のみを通過させる「帯域通過」フィルタとして動作します。
 同様にして、下側の帯域除去フィルタについて見てみます。信号線に繋がる2つの共振回路は並列なので、frの信号のみ高インピーダンスで、A側からB側に抜けられませんが、fr以外では(減衰はあるものの)B側に出てきます。
 一方、真中は直列共振回路ですから、frの信号は低インピーダンスでコモン(GND)に落ちてしまいますが、それ以外の周波数成分に対しては高インピーダンスです。
 結局、この回路の総合特性としては、A側に入力されたfrの成分はB側には非常に通りにくいものの、他の成分は通すようになっています。つまり、特定の周波数(=fr)を除去する「帯域除去(又は消去)」フィルタとして動作します。

それでは、解答に移ります。
 問題の回路図を見ると、π型のLPFです。図2と図3は通常のフィルタの通過特性のグラフと違って、縦軸が減衰量を示していますから、ちょっと面食らいますが、要するに上の方に行くほど減衰が大きい、ということです。LPFですから、周波数が上がるほど減衰量も上がるグラフを選べば良いわけで、Aは図2です。
 次に、フィルタの特性を表記する際、通過する「電力」が1/2となる周波数を遮断周波数と言います。入出力のインピーダンスが同じなら、電圧比でいうと、出力が入力の1/√2になる電圧となりますから、Bは問題文の「減衰量」で言えば√2ということになります。
 遮断周波数の計算は、難しいので掲載していません(私が理解できないから)が、π型LPFで入出力のインピーダンスが同じ場合、コンデンサがC/2の容量であれば、1/π√(LC)となります。
 従って、正解はと分かります。