□ R03年04月期 A-20  Code:[HH0306] : 同軸トラップで偶数次高調波が除去できる原理
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3304A20 Counter
無線工学 > 1アマ > R03年04月期 > A-20
A-20 次の記述は、同軸給電線路に取り付けた同軸トラップについて述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、T形接栓の内部においては、同軸給電線路と同軸トラップの内部導体同士及び外部導体同士がそれぞれ接続されているものとし、同軸給電線路と同軸トラップの特性インピーダンスの値は同一とする。
 図に示す同軸トラップの終端の短絡部までの長さlを、同軸線路上の波長の[A]にすると、基本波に対して同軸トラップの入力インピーダンスが[B]となる。一方、第2高調波に対しては、入力インピーダンスが[C]となり、第2高調波を除去[D]

1/4 0 0 できる
1/4 0 できる
1/4 できない
1/2 0 できない
1/2 0 できない
問題図 H3304A20a
Fig.H3304A20a

 この問題は、伝送線路の基本的な問題です。とは言っても、今(R3年4月期)迄にお目にかかったことがない問題ですので、あまり難しい式など使わずに、感覚的な理解から始めてみます。

[1]長さが波長に比べて無視できない伝送線路

 1本の同軸ケーブルを2本に分岐させて、分岐させた片方の先端を短絡したらどうなるか、という問題です。「片方だって、ショートなんだから、SWRが∞になるに決まってる」と思いますよね。確かに直流電源なら、きっと保護回路が働くか、壊れてしまうかのどちらかでしょう。でも、ここで考えているのは、高周波、ということがキーです。
 もう少し詳しく言うと、波長に比べて長さの無視できない伝送線路は、LやC、短絡や開放の素子として働く、ということです。極端な話、周波数が決まっている時、ケーブルを「ある長さ」にすれば、先端が短絡されているにもかかわらず、開放(つまり何も繋がっていない)にすることもできるのです。
 マイクロ波の流れるプリント基板を見ると、先端が開放になった部分や、不思議な幾何学模様を見ることがあります。これらは皆、パターンを伝送線路に見立てて、LやC、或いはそれらを組合せたフィルタ等をパターンで構成しているのです。

[2]伝送線路内の進行波と反射波

 まず、Fig.HH0306_aで、薄ピンク色の部分が問題の「トラップ」で先端が短絡されています。このトラップの長さLが、ちょうど1/4波長となるような周波数の交流を水色部分の同軸の下方から入力する場合を考えます。
Fig.HH0306_a 先端短絡線路上の基本波
Fig.HH0306_a
先端短絡線路上の基本波
 なお、この解説で言っている波長は、同軸線路上での波長です。自由空間の波長ではありませんので、注意して下さい。ちなみに、伝送線路上では、電磁波のスピードが落ちるため、波長は短くなります(波長短縮率=60〜80 [%]程度)。
 この時、t=0において、同図の左のようだったとします。進行波はピンク色の波形で、反射波が緑色の波形で、2つとも1波長の1/4個分の波形が入っています。先端が短絡の線路で起こる反射は、固定端反射ですから、先端では必ず入射波と大きさが同じで符号が逆の反射波が生じます。反射波はトラップの「根元」に向かって戻ってきますが、この分岐部分の根本での進行波との重ね合わの状況が重要です。
 次に、時間が少し進んで、基本波の周期T1の1/8だけ進んだ時間には、同図右のようになります。ここで注意したいのは、トラップの「根元」では、進行波と反射波の電圧が常に同じ、という点です。進行波の立場に立ってみれば、トラップの側に電圧をかけて電流を流そうとするものの、反射波がいつも同じ電圧をかけてきて、電流を流せない、ということを意味します。ですから、進行波から見れば、電圧をかけても電流が流れないのですから、トラップが無限大のインピーダンスに見える、さらに言えば、何も繋がっていないように見えるわけです。
 次に、Fig.HH0306_bのように、トラップの長さLが半波長となるような周波数の交流が、水色部分の同軸の下方から入っていると考えます。波長が半分ですから、上で考えた周期T1の信号を基本波、この周期T2の波を第2高調波、と考えても良いでしょう。
 t=0において、同図の左のようだったとします。これも進行波はピンク色の波形で、反射波が緑色の波形で、2つとも1波長の半分の波形が入っています。同図右は、基本波の周期T2の1/4だけ進んだ時間を示しています。ここでも重要なのは、「根元」における進行波と反射波の重ね合わせ状況です。
Fig.HH0306_b 先端短絡線路上の2倍波
Fig.HH0306_b
先端短絡線路上の2倍波
 2倍波の周期T2の1/4だけ進んだ時間には、同図右のようになります。ここで、トラップの「根元」では、基本波の時と違って進行波と反射波の電圧が、常に同じ大きさで符号が逆、という点に注目して下さい(右はたまたま両方ゼロですが…)。進行波の立場に立ってみれば、トラップの側に電圧をかけて電流を流そうとすると、反射波がいつもマイナスの同じ電圧をかけてきて、電流がいくらでも流せる、ということを意味します。これは、進行波から見れば、電圧を上げようにもキャンセルされ、トラップ(の入口)が短絡に見えるというわけです。
 同様に、偶数倍の高調波にとってはトラップが短絡に見え、奇数倍の高調波には開放に見えるので、トラップとして効果があるのは偶数倍に対してのみ、ということになります。

[3]最後に…難しい式

 以下は、陸技レベルの内容です。1アマには必ずしも必要ありませんが、上の考えの元となる式を示します。
 長さd [m]、特性インピーダンスZ0 [Ω]の伝送線路があって、先端にZLの負荷インピーダンスが接続されているとします。この線路上の波長がλ [m]の時、ケーブル端から負荷を見込む方向のインピーダンスZ [Ω]は、次式で表されます。
 
ここで、
 
です。ZL=0(短絡)や、ZL=∞(開放)、d=λ/4等を代入してみて下さい。上で説明したことが、式で確認できます。

それでは、解答に移ります。
…トラップの長さはλ/4でないと、基本波と第2高調波の分離ができません
…基本波に対してはトラップのインピーダンスは(開放)です
…第2高調波に対してのトラップのインピーダンスは0(短絡)です
…偶数次高調波はインピーダンスゼロでトラップされ、除去できます
 ので、正解はと分かります。

 最後のDですが、厳密に言うと、線路が完全な無損失の場合は、理論上、偶数次高調波を除去できません。T形接栓の分岐ポイントでは偶数次高調波電圧が零になりますが、その他の場所ではゼロにならない為です。高周波は、短絡すると反射するだけで、エネルギーは不変なので、厄介です。
 ただ、実際にはトラップとして用いるケーブルにも損失があり、偶数次高調波はトラップ側に電磁エネルギーを吸い込まれて、その損失で熱に変わります。