□ R04年04月期 A-11  Code:[HF0707] : 受信機で起こる2波3次の相互変調について、周波数関係を計算する
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09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3404A11 Counter
無線工学 > 1アマ > R04年04月期 > A-11
A-11 周波数fX [MHz]を受信していたアマチュア局において、近傍で発射された438.52 [MHz]のF3E電波とFMレピータ局が発射する439.36 [MHz]の電波により、2波3次の相互変調が発生した。この2波3次相互変調積の周波数fX [MHz]として、正しいものを下の番号から選べ。
436.00 [MHz] 436.84 [MHz] 437.68 [MHz] 438.10 [MHz] 438.94 [MHz]

 この問題は今回(2022年4月期)が初出ですが、結果を知らないと、非常に難問です。以下は、1陸技の解説用に書き溜めていた数式だらけの内容をそのままお出しします。結果の式だけを暗記したい方は、解答部分だけをお読みいただいても構いません。
 数式だらけですが、途中の計算の省略は(ほぼ)していません。追って行けば、受信機で3次のIMDが何故問題なのか、また、かくも自然現象が数式でうまく説明できるのか、がよく分かります。

INDEX

[1]相互変調は回路の「ひずみ」に起因する現象
[2]ひずみ波の周波数成分の解析
  (1) 解析の準備
  (2) 1次の項
  (3) 2次の項
  (4) 3次の項
[3]全ての信号成分を周波数順に並べてみると何が分かるか?
[4]問題となる相互変調積とその性質

  解答


[1]相互変調は回路の「ひずみ」に起因する現象

 通常、増幅回路等の能動回路は半導体素子を使って構成します。これらの素子は、多かれ少なかれ、入力波形に対して出力波形が比例しない「非直線性」、すなわちひずみを持っており、入力が単一信号の場合は、周波数が整数倍の高調波の原因となります。
 また「ひずみ」は、言い換えると、入力信号eに対して、得られる出力がeに比例する成分のみならず、e2に比例する成分、e3に比例する成分…、と、eの高次の項に比例する成分が出力されることです。
Fig.HF0707_a 2つの入力波に対する出力
Fig.HF0707_a
2つの入力波に対する出力
 入力が単一正弦波の場合は、基本波以外に直流分と高調波が含まれるだけですが、複数波の場合は話が途端に厄介になります。というのも、Fig.HF0707_aのように、入力が周波数が近いe1とe2という2つの信号成分で構成されている場合、出力にはそれぞれの高次の成分(e1n, e2n)以外に、e12やe122、e122…といった、入力の成分間の積の形で表される項が現れるのです。
 混変調積とは、多信号入力の回路で、出力に現れるひずみ成分のうち、信号間の積の形で表される成分のことを言います。
 以下に解析しますが、3次の成分に含まれる、周波数が「e1の2倍高調波−e2」、又は「e2の2倍高調波−e1」の成分は、基本波に周波数が近く、フィルタ等で容易に取り除けないため、問題となります。増幅段の途中に、周波数が近接する電波が入り込み、これらの成分が取り除けずに、後段で増幅されてしまうことが問題だ、というわけです。
 それでは、以下に、2信号成分がひずみを持つ回路から出力される場合の周波数や電力について、解析して行きます。

[2]ひずみ波の周波数成分の解析

(1) 解析の準備

 これから、長い長い計算の過程に入ります。試験の際にこれをやらなければならない、という意味ではなく、問題の背景となっている理論を説明するものです。試験の際には出題される問題の解答を「知識」として覚えておくしかないでしょう。

 まず、ある回路の伝達関数(入力に対して出力がどういう関数で表現されるか)が、以下のように2信号の入力e1, e2の和に対して、3次までの項で表現されていると仮定します。つまり、
 1(e1+e2)2(e1+e2)23(e1+e2)3 [V] …(1)
ここで、k1,k2,k3はそれぞれ比例定数で、k1は無次元量、k2は[V-1]、k3は[V-2]の次元を持つ定数とします。また、e1とe2はそれぞれ振幅がA1, A2 [V]で角周波数がω1, ω2 [rad/s]の正弦波であるとします。
 1=A1cosω1t …(2) 希望波
 2=A2cosω2t …(3) 混入波
この時、この回路の出力eがどういう周波数成分でどういう強さの信号からなるのか、を解析して行きます。
 この解析で、どうしてもお出ましいただかなければならない三角関数の公式を、3つだけ挙げておきます。
 cosαcosβ=(1/2){cos(α+β)+cos(α−β)} …(公式1)
 cos2α=cosαcosα=(1/2){cos(α+α)+cos(α−α)}
    =(1/2)(cos2α+1) …(公式2)
 cos3α=cos2αcosα=(1/2)(cos2α+1)cosα
    =(1/2)(cos2αcosα+cosα)=(1/2){(1/2)(cos3α+cosα)+cosα}
    =(1/4)cos3α+(3/4)cosα …(公式3)
(公式2)は、(公式1)でβ=αとおけば得られますし、(公式3)は(公式2)×cosαとして(公式1)を再度使ったものですから、実質的に覚えておかなければならないのは(公式1)だけです。

(2) 1次の項

 それでは、(1)式の1次の項
 o1=k1(e1+e2) …(4)
について考えます。この(4)式は、e1,e2に(2)式,(3)式を代入すれば
 o1=k1(A1cosω1t+A2cosω2t)
   =11cosω1t+k12cosω2t …(5)
であり、単純に1とe2を合わせたものをk1倍に増幅したものです。e2は混入波ですから、増幅したくありませんが、e1と周波数が近いので、これが増幅器の帯域内にある場合は(5)式の第2項が出てきてしまいます。

(3) 2次の項

 (1)式の2次の項である、
 o2=k2(e1+e2)2 …(6)
について計算します。(6)式に(2)式,(3)式を代入して展開すれば、
 o2=k2(e12+2e12+e22)
   =k212cos2ω1t+2k212cosω1tcosω2t+k222cos2ω2t …(7)
 cosの2次の項が入っていますので、公式を使って1次の項に変形したいのですが、これを一気に計算するのは大変ですから、下記のように分けて計算します。
 第1項:212cos2ω1t
 第2項:2k212cosω1tcosω2t
 第3項:222cos2ω2t
第1項と第3項の計算には(公式2)を使います。
 第1項=k212cos2ω1t=(k2/2)A12(cos2ω1t+1)
    =(k2/2)A12cos2ω1t(k2/2)A12 …(8)
同様にして第3項も、
 第3項=k222cos2ω2t=(k2/2)A22(cos2ω2t+1)
    =(k2/2)A22cos2ω2t(k2/2)A22 …(10)
第2項の計算には(公式1)を使います。
 第2項=2k212cosω1tcosω2t
    =k212{cos(ω1+ω2)t+cos(ω1−ω2)t}
    =212cos(ω1+ω2)t212cos(ω1−ω2)t …(9)
となります。結局、第1項から3項までを足してeo2を求めると、
 o2=(k2/2)A12+(k2/2)A22+k212cos(ω1−ω2)t
    +(k2/2)A12cos2ω1t+k212cos(ω1+ω2)t
    +(k2/2)A22cos2ω2t …(11)
という、6つの成分(周波数の低い順に整理)が出てきます。後ほど各成分について解析しますが、(11)式の第1項と第2項は、tが入っていないので、直流成分です。その他、第3項の周波数「差」の成分、第5項の周波数「和」成分、それに、第4項と第6項の2倍波の成分が出てきます。

(4) 3次の項

 2次と同様に、(1)式の3次の項である、
 o3=k3(e1+e2)3 …(12)
について計算します。項数が多いので、計算が大変面倒ですが、間違えないように行きます。(12)式に(2)式,(3)式を代入して展開すれば、
 o3=k3(e13+3e122+3e122+e23)
   =313cos3ω1t3k3122cos2ω1tcosω2t
    +3k3122cosω1tcos2ω2t323cos3ω2t …(13)
 これらにもcosの高次の項が入っていますので、公式を使って1次の項に変形します。これもまた一気に計算するのは大変ですから、下記のように分けて計算します。
 第1項:313cos3ω1t
 第2項:3k3122cos2ω1tcosω2t
 第3項:3k3122cosω1tcos2ω2t
 第4項:323cos3ω2t
第1項と第4項の計算には(公式3)を使います。
 第1項=k313cos3ω1t=(A13/2){(1/2)(cos3ω1t+cosω1t)+cosω1t}
    =(k3/4)A13cos3ω1t(3k3/4)A13cosω1t …(14)
 第4項=k323cos3ω2t=(A23/2){(1/2)(cos3ω2t+cosω2t)+cosω2t}
    =(k3/4)A23cos3ω2t(3k3/4)A23cosω2t …(17)
また、第2項と第3項の計算にも(公式3)を使います。つまり、
 第2項=3k3122cos2ω1tcosω2t
    =(3/2)k3122(cos2ω1t+1)cosω2t
    =(3/2)k3122(cos2ω1tcosω2t+cosω2t)
    =(3/2)k3122[(1/2){cos(2ω1+ω2)t+cos(2ω1−ω2)t}+cosω2t]
    =(3/4)k3122cos(2ω1+ω2)t(3/4)k3122cos(2ω1−ω2)t
     +(3/2)k3122cosω2t …(15)
 第3項=3k3122cosω1tcos2ω2t
    =(3/2)k3122(cos2ω2t+1)cosω1t
    =(3/2)k3122(cos2ω2tcosω1t+cosω1t)
    =(3/2)k3122[(1/2){cos(ω1+2ω2)t+cos(ω1−2ω2)t}+cosω1t]
    =(3/4)k3122cos(ω1+2ω2)t(3/4)k3122cos(ω1−2ω2)t
     +(3/2)k3122cosω1t …(16)
やっと計算が終わりです。結局、第1項から4項までを足してeo3を求めると、
 o3=(3/4)k3122cos(2ω1−ω2)t+(3/4)k3122cos(ω1−2ω2)t
    +(3k3/4)A13cosω1t+(3/2)k3122cosω1t
    +(3k3/4)A23cosω2t+(3/2)k3122cosω2t
    +(k3/4)A13cos3ω1t+(3/4)k3122cos(2ω1+ω2)t
    +(3/4)k3122cos(ω1+2ω2)t+(k3/4)A23cos3ω2t …(18)
非常に数が多いので、各々の分析は、他の次数の項と合わせて整理してから行ないます。ただ、直流や非常に周波数の低い項、送信周波数の2倍近辺の周波数成分がないことは、注意しておきます。

[3]全ての信号成分を周波数順に並べてみると何が分かるか?

 (5)式,(13)式,(17)式の全てを加算すれば、3次までの全ての信号成分が直流又はcosωtの形で書けますが、あまりにも数が多いので、表に整理します。我々は、普通、この手の議論をする時に周波数成分で議論したいので、これを周波数順に整理してみます。
 ここで、希望波e1の周波数をf1(ω1=2πf1)、混入波e2の周波数をf2(ω2=2πf2)とし、f1<f2と仮定し、周波数が低い順に並べてみます。((9)式や(16)式で、ω1−ω2やω1−2ω2という「負の周波数」が出てきますが、スペアナ等で信号として観測されるのは絶対値の周波数ですから、表の中では絶対値に直しています。)
周波数 成分
直流 (k2/2)A12, (k2/2)A22
2−f1 212cos(ω2−ω1)t
1 11cosω1t, (3k3/4)A13cosω1t, (3/2)k3122cosω1t
2 12cosω2t, (3k3/4)A23cosω2t, (3/2)k3122cosω2t
2f1−f2 (3/4)k3122cos(1−ω2)t
2f2−f1 (3/4)k3122cos(2−ω1)t
2f1 (k2/2)A12cos2ω1t
1+f2 212cos(ω1+ω2)t
2f2 (k2/2)A22cos2ω2t
3f1 (k3/4)A13cos3ω1t
2f1+f2 (3/4)k3122cos(1+ω2)t
1+2f2 (3/4)k3122cos(2+ω1)t
3f2 (k3/4)A23cos3ω2t

 ここで着目するのは、相互変調積です。相互変調積は上記の周波数成分のうち、角周波数が太字で書かれたもののみ(直流や、e1,e2の基本波と高調波は相互変調積ではない)です。2次の項は|ω1±ω2|の2つ、3次の項は、|2ω1±ω2|と|2ω2±ω1|の4つありますが、そのうち問題となるのは上の表で濃いピンク色の欄の2つ(2ω1−ω2と2ω2−ω1)です。

[4]問題となる相互変調積とその性質

 何故、この周波数が問題になるかと言えば、フィルタ等で除去しづらいからです。
 例えば、f1=1,000 [kHz], f2=1,010 [kHz]とします。この時、ピンク色の欄に示した項の周波数は、2f1−f2が990 [kHz]、2f2−f1が1,020 [kHz]と、送信波に非常に近く、シャープなフィルタでなければ除去できません。スペクトルで描くと、Fig.HF0707_bの右下のように、送信波・混入波の両側に等間隔で現れます。
 これは、混入波の周波数が希望波の送信周波数に近ければ近いほど、顕著になります。
Fig.HF0707_b ひずみと相互変調積のスペクトル
Fig.HF0707_b
ひずみと相互変調積のスペクトル
 これに対して、それ以外の周波数成分(基本波を除く)は、直流であったり、2倍・3倍の周波数のオーダーなので、一般的にフィルタで十分な減衰量を確保することは容易です。
 また、これらの周波数成分(2f1−f2, 2f2−f1)について、電力(振幅)を見ておきます。これらの信号は、A122又はA122に比例していますから、1とA2両方をn [dB]減衰させたとすると、相互変調積の成分は3n [dB]減衰します。ただ、普通は混入波の方は減衰させても、希望波は減衰させたくないことの方が多いです。e1(A1)は減衰させず、e2(A2)の方だけをn [dB]減衰させたとすると、相互変調積の成分周波数によって減衰量が異なり、2f1−f2の方はn [dB]の減衰、2f2−f1の方は2n [dB]減衰する計算になります。
 これまで得られた、2周波が入力された非線形回路による、(3次までのひずみ)出力の特性をまとめると、以下のようになります。
  • 直流から3倍高調波まで、13種類の周波数が出力される
  • 2次の相互変調積はf1±f2の2成分
  • 3次の相互変調積は2f1±f2とf1±2f2の4成分
  • 帯域内への混入が問題視されるのは、3次の2f1−f2と2f2−f1
  • 3次の相互変調積は入力がともにn [dB]変化すれば、3n [dB]変化する
 ちなみに、4次以降は計算していませんが、これまでの計算を繰り返して行けば、(n+1)f1−nf2又は(n+1)f2−nf1のような、基本波に近くて除去しづらい項が現れるのは、奇数次であって、偶数次ではこれが現れないことが想像できます。
 また、トランシーバに、例えば10 [dB]のアッテネータスイッチが付いているとします。これをONにすることで希望波は10 [dB]減衰してしまいますが、3次の混変調積の成分は30 [dB]落とすことができるので、差し引き20 [dB]の改善になる、というわけです。

それでは、解答に移ります。
 f1=438.52 [MHz]、f2=439.36 [MHz]とした時に、以下の3次の相互変調積の成分をそれぞれ計算すれば、
 2f1−f2=437.68 [MHz]
 2f2−f1=440.20 [MHz]
となりますから、正解は2f1−f2の場合で、と分かります。