□ R04年08月期 A-14  Code:[HF0501] : スケルチ回路の構成と動作
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3408A14 Counter
無線工学 > 1アマ > R04年08月期 > A-14
A-14 次の記述は、図に示すFM(F3E)受信機の原理的なスケルチ回路の動作について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。なお、同じ記号の[ ]内には同じ字句が入るものとする。
(1) 受信している希望波の信号強度が十分な時は、AGCによる利得調整や振幅制限器の作用等により、検波器の出力に現れる雑音は非常に小さい。
(2) 希望波がなくなるか弱くなると、検波された信号に含まれる雑音成分が増加するので、その中からコンデンサCで周波数の[A]雑音成分のみを取出してトランジスタTr2で増幅する。これをダイオードDにより検波し、周波数の[A]雑音成分に比例した[B]の直流電圧(スケルチ制御電圧)を得て、トランジスタTr1のベースに加えると、Tr1はコレクタ電流が遮断されカットオフ状態になり増幅作用が停止する。この回路は一般に[C]スケルチと呼ばれる。


高い ノイズ
高い キャリア
高い ノイズ
低い キャリア
低い ノイズ
問題図 H3408A14a
Fig.H3408A14a

 今迄、FM受信機のスケルチの問題というと、ブロック図レベルの問題か文章の正誤問題しかなかったのですが、今期(R4年8月期)、突如、原理回路図が出題されました。従来の問題と併せて解説します。

[1]スケルチ回路の構成と動作

 Fig.HF0501_aにFM受信機中のスケルチ回路とその周辺の構成を示します。このブロック図について、動作の概略を説明します。

(1) 雑音増幅器

 雑音増幅器は周波数弁別器の出力から、ノイズ成分のみを取り出して増幅します。FMのノイズは、(聞いたことがある方がほとんどとは思いますが)「ザー」という非常にランダムで高周波成分の多いノイズですので、音声と分離するのは比較的容易です。
 雑音増幅器の入力は、振幅制限器の制限レベルを示す直流電圧と周波数弁別器の出力ですが、振幅制限器からも信号を取るのは、アンテナ入力が低レベルで振幅制限器が動作していない(振幅制限がかかっていない)時にのみ、スケルチ回路を動作させるためです。

(2) 雑音整流器

 「雑音」を「整流」するというのもすぐにイメージが湧きませんが、要するに電源回路などの整流と同じことで、ノイズという交流を整流して直流電圧に変換する働きです。ここで変換された直流レベルは、ノイズの大きさを示していますから、これをスケルチ動作のしきい値としてやります。

Fig.HF0501_a スケルチの構成と動作
Fig.HF0501_a
スケルチの構成と動作

(3) 制御回路

 中身は比較器(コンパレータ)で、低周波増幅を止めるかどうか判断します。何と何を比較するかというと、上で得られた、ノイズの大きさに比例する電圧と、(手動などで)設定するスケルチレベルです。
 ノイズレベルがスケルチレベルより大きければ、低周波増幅回路の動作を止めます。ノイズレベルが小さければ、信号が来ていると判断して低周波増幅回路を動作させます。

[2]スケルチ回路の原理的動作

 R4年8月期の問題として、具体的な原理回路図例を元にした出題がありましたので、上で述べた内容を具体的にイメージするため、追加します。
 Fig.HF0501_bの回路図で示した赤い部分が雑音の抽出と増幅を担う部分、青色の部分が雑音強度に応じた直流電圧を作り出す部分、緑色の部分がスケルチ入力付きの低周波増幅部になります。
 まず、周波数弁別器を通った信号には、音声より高い周波数成分を多く持つ雑音成分が含まれているので、これをC21により抽出します。そのノイズ信号はTr2とR21〜R23、C22からなる回路(雑音増幅器)で増幅され、トランスTに伝送されます。
 トランスの二次側では、ダイオードDとR31、C31、C32からなる整流、平滑回路(R31、C31、C32でLPFを形成している)によって、雑音信号は直流電圧に変換されます。
Fig.HF0501_b スケルチ原理回路例
Fig.HF0501_b
スケルチの原理回路例
 ここで、Dの向きに着目して下さい。Dがこの向きだと、出力(制御電圧)にはGNDに対して負電圧が生じます。
 Tr1、R11〜R14、C11からなる回路は低周波増幅回路ですが、ポイントはベースバイアスに(VRを経て)加えられている、スケルチの負の制御電圧です。ノイズが無いかレベルが小さい時は負の制御電圧は小さく、この回路のベースバイアスにはR11とR12によって決まる正の電圧が加わっていて、増幅器として動作します。ところが、ノイズが大きくなると制御電圧が大きく負に振れて、R11とR12によるバイアス電圧を打ち消し、Tr1の動作点以下に持って行くので、Tr1は動作を止めてしまいます。ノイズがどの程度のレベルでスケルチを効かせるか(スケルチレベル)は、VRの値で調整します。
 ノイズがなくなれば、すぐに制御電圧はゼロに近くなり、Tr1は元の正常なバイアスに戻るので、音声増幅が機能し始めます。
 この回路のミソは、トランスTで直流的に雑音増幅器と制御電圧発生側を絶縁しながら負電圧を作り出すTの使い方とDの向きです。余談ですが、近年、1アマの問題が高度化しており、「回路図を見て動作を考える」能力を問われるケースも増えているように感じます。何でもIC化されて「中身が見えない」時代ですが、こうした原理回路や等価回路には慣れておく必要があると思います。

[3]似たような回路と何が違う?

 ノイズを除去する回路には、このスケルチの他にもいろいろあります。選択肢にあれこれ出てくることがあるので、頭を悩ませることのないよう、整理しました。

(1) ノイズブランカ

 受信信号からパルス性のノイズのみを抜き出し、一定以上のレベルを超えたものが通過する間、中間周波数増幅器の動作を止めることで、ノイズを除去します。CW, SSBやAMといった振幅変調系の受信に用いられます。レベルの低い、連続するノイズには効果はありません。FMでは用いられません(FMは振幅方向の変動は、検波の前段の振幅制限器で制限されるため)。

(2) ノイズリミッタ

 これもパルス性のノイズに用いるものですが、リミッタで振幅を制限することで、ノイズを抑えます。ノイズブランカと同じように、FMでは振幅制限器がありますので、振幅変調系の受信機に用いられます。

(3) ミューティング回路

 これはFM受信機に用いられます。スケルチがノイズを検出して動作するのに対して、ミューティングは中間周波増幅器から搬送波の有無を検出して、後段の中間周波増幅器の動作を止めたり動かしたりして、制御します。ミューティングレベルを設定できる回路では、搬送波のレベルがいくら以上で中間周波増幅器を動作させるかを設定できます。
 アマチュアのリグでは見たことがありませんが、オーディオ用のFMチューナーには搭載されています。選局中に、局のないところで「ザー」とものすごいノイズが出たら、興ざめです。最近のはデジタルチューナですから、ダイヤルで合わせる事もあまりありませんが。

それでは、解答に移ります。
FMの検波出力には周波数の高いノイズ成分が含まれます
この回路では、制御電圧には電圧が出力されます
この回路はノイズを検出して動作するので、ノイズスケルチです

となりますから、正解はと分かります。