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オルゴールの話編 タイトル
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 私のようなメーカーの技術者なら、一度はこういうものを作ってみたいと思うのでは…というのがオルゴール。音楽をいつも身近に、繰返し聞きたい…我々と同じ欲求を、100年以上も前に満たしてくれていた、機械仕掛けの超精密アイテム。
 今ほどの大量生産はできなかった、だからこそ大切にされ続け、今なおその響きが人の心を打つ力を持つ。物を作るなら、あっという間にたたき売りされて、1年と経たずに捨てられてしまうものよりは、売れなくてもいい、シェアなんて気にしなくていい、こんなものを作りたい!私の心は叫びつづける…
 harpmaster様からご指摘を頂き、一部内容を訂正いたしました。

「オルゴールの話編」の目次

1 前置き&大まかな構造
  □ 1-1 技術屋の正しいオルゴールへのハマり方?
  □ 1-2 大まかな構造その1 ムーブメント
  □ 1-3 大まかな構造その2 ボックスと響板
2 各部分の探究
  □ 2-1 楽譜はこの中に…シリンダー
  □ 2-2 オンチにしないために…櫛歯と音程
  □ 2-3 音を出すためのエネルギー源…香箱
  □ 2-4 演奏の質を上げる…付加装置
  □ 2-5 音を大きく響かせる…響板とボックス

前置き&大まかな構造
 オルゴールファンのWebページはたくさんあって、技術的な優れた解説をされている方もおられます(リンクページでもそのうちのいくつかをご紹介しています)ので、詳細はそちらに譲って、ここではざっとオルゴールとはどんなものなのか、おさらいしておきましょう。チョッとその前に、何故私がオルゴールにハマってしまったか? を書いておきます。

□ 1-1 技術屋の正しいオルゴールへのハマり方?

 昨今、観光地などには個人のコレクションを公開したオルゴール博物館などが多くなりましたので、いわゆる「本物」に触れられた方が多くなってきていると思います。そこには、長さが4〜50cmもあるシリンダーや、60cmもある鉄の円盤が、ゆっくり回転しながら100年以上もの時を越えて、音楽を奏でてくれます。また、自動演奏楽器というジャンルでは、空気圧で動くパイプオルガン、バイオリンやシンバル、大太鼓まで備えたオーケストリオンと呼ばれる巨大な装置まで、間近に見て、聞くことができます。
 これらの装置は、人間が「自動で、繰返し音楽を楽しみたい」という望みをかなえるため、当時なしえた最高の精密機械技術を集めて製作された装置といえます。しかも、それが100年以上も前のものでさえ、(メンテさえすれば)当時と変わらぬ音色を奏で続ける、というところに、現在のエレキ仕掛けの再生装置では感じ取ることのできない、当時の技術者たちの「想い」を感じてしまうのです。

 オルゴールにハマり始めた頃、私は製品開発・設計の仕事をしていました。今まで延べ10館、100台以上聞きましたが、聞く度に、彼らの製作した物の緻密さと、そこから出てくる音に圧倒されてしまいます。そして、彼らから
 「お前の作っている物は100年後も変わらず使う人を満足させ続け得るか?」
と、問われているような気がしてならないのです。これは、一番最初にオルゴールに出会った、清里の博物館、ホールオブホールズを訪れた時から変わっていません。

 技術的なことがお分かりにならない方も、興味がない方も、その音色に感動するだけでも十分にオルゴールの存在価値はあるのです。当たり前の話ですが、私も最初はそこ(「いい音だ」と感激すること)から入りました。このページを見て、「いい音」にプラスアルファで、「中はどうなっているんだろう」「どうやって作ったんだろう」という興味がわけば、幸いに思います(そこまで引込む文章を書く力がないんですけど…)。

 なお、以下に書く内容は、基本的にシリンダーオルゴールを中心にしています。(ディスクオルゴールなど他のタイプは持っていないので、本に書いてある以上の詳しいことは書けないのです…)シリンダー以外の事を書く際は断り書きを入れますので、ご了承下さい。
□ 1-2 大まかな構造その1 ムーブメント

 「ムーブメント」とは一般には聞きなれない言葉ですが、オルゴールでいえば、演奏をする金属部品で、心臓部です。時計でも、文字盤や針、ケースを除いた、歯車・ゼンマイ(orモーター)とそれを組み合わせている部分をムーブメントと言います。これはディスクオルゴールでも同じです。
 シリンダーオルゴールでは、ムーブメントの中の各要素は、一般にFig. 1-1のように配列されています。この配列は、ぜんまいを巻くつまみの出ている方向が、底面か側面か、などの違いはありますが、どの時代の物でも大差はないようです。
 ムーブメントの構成要素の働きとしては、

ムーブメントの構造
Fig. 1-1

ムーブメントの構造

  • シリンダー…楽譜の情報(強弱を除く)が細いピンで記録されている
  • 櫛歯…シリンダーのピンにはじかれて音を出す
  • ゼンマイ…シリンダーを回転させる動力源
  • 速度調整機構…ゼンマイの力をシリンダーに伝えるとともに回転速度を安定化する
この他に、これらを支える台座や押さえなどからなって全体を構成しています。
 文章で動作を説明するのはかなり難しいのですが、あえて説明すると、
  • ゼンマイを巻く
    メーカーや機種にも依りますが、ゼンマイを数回から10回転程度回すと、フルに巻かれた状態になります。
  • スタートさせる
    大概のオルゴールは、(ゼンマイを巻いたら止まらない、スイッチなしのものもありますが)スタート/ストップのスイッチが付いています。スイッチを入れると、速度調整機構のロックが外れ、ゼンマイの力がシリンダーに伝わり始めます。
     アンティークのディスクタイプで業務用のものでは、コインを入れるとスタートするものがあります。
  • ピンが櫛歯をはじく
    シリンダーが回り始めると、シリンダーに植えられた細いピンが櫛歯をはじいて音が出ます。単純に書くとそれだけですが、このプロセスに関わる技術は、非常に難易度の高い(後述)ものばかりです。例えば、櫛歯の製作には、薄い鉄の板に正確に切れ込みを入れていかなくてはなりません。音程の調整(調律)も重要です。
  • 曲(=シリンダーの回転)を変える
    1本のシリンダーで複数の曲が演奏できるものは、1曲の演奏終了後、シリンダーが横に少しシフトして、前の曲とは別のピンが櫛歯をはじくようにできています。このシフト機構が、絶妙で精密です。
  • 演奏を止める
    1曲の演奏が終わるとスイッチが自動的に戻って止まるものや、スイッチを止めるまでそのまま回り続けるものなど、様々です。
  • シリンダーを交換する
    現在販売されているものでは、ないと思いますが、数少ないながらあるようです。私はお目にかかったことがないのですが…。(この情報は、harpmaster様よりいただきました。04-12-11修正/追記)アンティークのものでは1本の中に複数の曲を入れるだけでなく、シリンダー自体を交換して、多数の曲を演奏できるようにしたものもありました。
非常に精巧に作られたメカニズムですので、丁寧に扱わなくてはなりません。特に、湿度の高い日本では、鉄でできた部分(主に櫛歯)が錆びやすいので、乾燥剤とともに高湿にならない密閉容器に入れておくなどの対策が必要です。(但し、乾燥剤を入れると。乾燥しすぎて木が割れるなどのトラブルの可能性があります。これもharpmaster様よりご指摘をいただきました。「乾燥剤より脱酸素剤の方が錆を防げるのでは」とのご指摘は、もっともです。04-12-11修正/追記)
私は防湿のため、保管にはカメラ用品と同じ防湿庫に入れています。
□ 1-3 大まかな構造その2 ボックスと響板

 1-2で書いたような、非常に精巧なムーブメントですが、実はこれだけでは、大変か細い音しか出ません。アンティークの大型なものをお聞きになった方は、その響きの大きさに驚かれたはずです。あの響きはどこから来るのでしょうか?
 太鼓の胴、ピアノの響板、バイオリンの胴など、ほとんどの楽器は振動する部分とは別に、「箱(胴)」や「板」にその振動を伝え、効率よく周囲の空気にそのエネルギーを伝達するような構造になっています。
 オルゴールも例外ではなく、ムーブメントが固定された響板やボックスがその役目を果たしています。

オルゴールの底面
Fig. 1-2

大胆にもひっくり返してみました

  • ムーブメントが固定されている響板
    簡単な仕組のオルゴールではこれがない(直接ボックスに固定されている)ものもありますが、響きを重視したオルゴールでは、響板という特別な板に取り付けられていることがあります。ディスクオルゴールなどでもムーブメントが響板に取り付けられています。響板は、ボックスとは別の材質の木で作られることもあり、その樹種や板厚などで響きの性質が変化します。曲の雰囲気に合わせて選ばれます。
  • ボックス
    文字通り「箱」ですが、上にも書いたように単なる箱ではなく、ムーブメントや響板からの振動を、効率よく周囲の空気に伝える、という働きを担います。木材では響板と同様、樹種や板厚などが響きに影響します。アンティークではほぼすべてが木材を使用していますが、近年のものでは、動作がすべて見えるガラス製のものもあります。木製のものでは、商品の芸術的価値をも高めるため、象嵌細工や彫刻を施したものもあります。
 特に、ここでは木の種類(樹種)によって、音質が大きく違うことに興味をそそられます。オルゴールにハマったことがきっかけで、木の種類とその性質にも興味が湧きました。詳しくは、参考文献「森の博物館」(稲本正著)などで学ぶことができます。

各部分の探究
□ 2-1 楽譜はこの中に…シリンダー

 ここからは、各部品を少し詳細に見て行きましょう。まずはシリンダーです。

 シリンダーは真鍮のパイプにピンが植えてあります。簡単に言うとそんな構造ですが、まず、このシリンダーに穴を開ける作業と、ピンを植える作業は、アンティークオルゴールでは手作業です。技術的に言うと、このピンの穴あけの円周方向の位置精度は、音符で言うと時間方向のズレとなります。
 仮にシリンダーの直径を25mm、回転速度を1回転30秒とすると、円周上の秒速(線速度)は約2.6mm/sとなります。つまり0.26mmずれると0.1秒の誤差となるわけです。

シリンダーとピン、櫛歯の位置関係
Fig. 2-1

シリンダーとピン、櫛歯の位置関係

 楽器をやられていた方ならお分かりかと思いますが、器楽の演奏で、ある楽器(あるいはピアノなら右手に対して左手のパート)が0.1秒遅れたり進んだりすると、聞いていて分かる範囲です。ましてや、オルゴールという音の出る瞬間が明確に聞こえる楽器では、なおさら違和感があるでしょう。私の想像ですが、多分この手作業の穴あけの精度は、0.1mm以下ではないかと思います。

 ところが、おもしろい?ことにこの誤差が限りなくゼロに近づくと、これまたちょっと物足りない感じがするのです。国産メーカーの三協精機では、この穴あけ作業を機械化した、と聞きましたが、メーカーのサイトでサンプルを聞いてみると、非常に音のタイミングが整っていて、シンセサイザーを聞いているようなのです。
 手作業で作られたものを長く聞いてきたから、耳にそういう好みが作られているのかもしれません。(周囲の雑音、ボックスの材質や形など)同じ条件で比べたわけでもありませんし、そういう「比較の目(耳?)」を持って「生」の演奏を聞いたこともありません。ですから、確定的なことは言えません。でも、何となく手作りのものと音の「造り」が違う気がします。決して三協精機のムーブメントが悪いと言っているのではなく、好みの問題だと思いますが。

 穴あけとピンを植える作業は、1曲分だけとは限りません。1本のシリンダーで何曲も演奏可能なものがあるからです。例えば3曲入りの場合、ピンとピンとの間隔は、櫛歯の間隔の1/3となります。櫛歯の間隔が(目測で)2mm程ですから、最も近いところでは、ピン同士の横の間隔は0.7mm程と言うことになります。
 アンティークのもので6曲10曲入りともなると、さすがに詰め込めなかったようで、櫛歯の間隔を広くして対応しているようです。(6曲程度では櫛歯は広くしない、とharpmaster様よりご指摘いただきました。04-12-11修正)

 さて、ピンを植えたら、次にシリンダー面からのピンの高さを揃えます。こうしないと、櫛歯をはじく時に持ち上がる高さが、音によって異なってしまい、音の強弱がバラバラになってしまいます。はじかれる位置も音により異なってくるため、タイミングの差も生じます。
 この作業も手作業でやるのかと思って、詳しい友人に聞いたところ、シリンダーの回転軸を中心に回転させ、ヤスリに押し付けて削るのだそうです。確かにそうやれば、実際の回転軸からピンの長さが一定に調整されますね。
□ 2-2 オンチにしないために…櫛歯と音程

 シリンダーとともに、櫛歯もキーパーツです。櫛歯は、一見すると鉄の板に切れ込みを入れただけのようなものですが、実はいろいろな工夫がなされています。それを覗いていきましょう。

 まず、歯の長さを見てください。例えば、72本の櫛歯があり、3オクターブの音域をカバーしているものとします。振動数で考えると、最低音に対して最高音は、2^3=8 で、8倍の振動数になります。弦の単振動では、弦の長さと振動数は反比例の関係ですから、最高音の弦の長さを1とすると、最低音の弦の長さは8となります。
 ここで、櫛歯をもう一度よく見てみます。最高音と最低音の櫛歯の長さの比は、とても振動数の逆比にはなっていないと思います。せいぜい1:2〜1:2.5程度ではないでしょうか? 1本の櫛の太さを変えれば長さの分を補えます(ピアノの弦などはこうなっている)が、見たところ、低音の弦が太くなっているようにも見えません。
 ご存知の方もおられるかと思いますが、実は、低音の櫛歯の裏側には、鉛のオモリが付いています。最低音ともなると、驚くほど大きなオモリが付いています。高音の側は、逆に櫛歯を削ってあります。見た目は低音側と高音側で、振動数の比率ほどは長さの違わない弦も、オモリを付けたり弦自体を削ったりすることで、広い音域を実現しているのです。
 このことは、振動数の調整(=調律)にも役立っています。ピアノやギターなどは弦の張り具合(=張力)を調整して調律しますが、オルゴールはオモリや弦自体を削ることで、弦の重さを加減して調律するのです。
音域ごとの櫛歯の形状とダンパーの位置
Fig. 2-2

音域ごとの櫛歯の形状とダンパーの位置

 但し、ピアノやギターの弦ならば張り過ぎて音が高くなり過ぎれば緩めればよいのですが、オルゴールの櫛歯は、一旦、(ヤスリ?で)削り過ぎてしまったら、戻せませんから、調律の現場では、オシロスコープを見ながら、慎重にやっているようです。

 次に、あまり知られていない、「ダンパー」を見てみましょう。
 短い間隔で、同じ音が続く場合、シリンダーの針がある弦をはじいてから、次の針が同じ弦をはじくまでに、弦の振動が続いていることがあります。このような場合、2回目の針が弦に触れた瞬間、ジーとかニーとか、(なんとも表現し難いですが)振動している音叉に紙片をくっつけたような、濁った音がします。この音が非常に耳障りな音なので、針が弦をはじく前には、弦が静止していてほしいのです。
 このブレーキ役となるのが、ダンパーです。ダンパーは弦の下側に付いていて、アンティークのものでは細い針金で、最近の櫛歯では樹脂フィルムのようなものでできていて、いずれもそれぞれの弦に固定されています。回転してきた針が、まずダンパーに軽く触れ、弦の振動を抑えた後、弦をはじく、という構造になっています。ちなみに、高音側の弦は、振動の減衰が速い(=すぐ止まる)のでダンパーは付いていません。

 音の連打に関しては、別の解もあります。弦数の多い72弦などの櫛歯で、音域が狭い曲の場合、弦が余りますね。こうした時は、1つの音に複数本の弦を割当てることがあります。先に見たように、長さが違ってもオモリの削り具合で、同じ音程の音にできるわけです。
 こうするとダンパーでも間に合わないような、高速の連続音(トレモロ)でも対応できますし、連続音でない時は2弦同時にはじいて、音に深みを出す(サブライム効果)こともできます。振動数がほとんど同じ2つ以上の音を聞くと、音に深みが感じられる、という聴覚上の特性を利用した効果です。正確にはサブライムとは同じ櫛歯とシリンダーを2組用意して、同時に回し、左右で同じ音を出すことで深みを出すことを指すようですが、1つの櫛歯の複数弦でもこう言うこともあるようです。
□ 2-3 音を出すためのエネルギー源…香箱

 最近はシリンダーの回転を電動で行なうものもありますが、ほとんどは昔ながらのゼンマイです。ゼンマイが入っている箱を「香箱」と言います。香箱といってもいい香りがする箱なわけではありません。時計のゼンマイが入った箱を同じように「香箱」というところから来たそうです。

 演奏する前にゼンマイを巻いて、この中に納められたゼンマイバネにエネルギーを蓄えるわけです。当然、巻き上げられた時と緩んだ時で、シリンダーへの回転力が異なってきますが、この後に書く調速機構で、なるべく回転が一定速に保たれるようになっています。
 私の持っているオルゴールに付いているのは、直径3cmほどの小さなものですが、アンティークの長時間演奏ができるものなどは、7〜8cmの太鼓のような形の物が付いています。さらにパワーの必要なディスクオルゴールなどでは、ゼンマイバネの幅が5cm、緩んでいる時の直径が15cmほどもある、大きな物がついています。これはバネがむき出しになっていて「箱」にはなっていないものもあります。
 ゼンマイを巻くには、大型のアンティークでは専用の脱着できるハンドルを付けて回したり、小型のものではボックスの裏側に出ているツマミを回したりします。最近のものはほとんど後者だと思います。
 長時間にわたって演奏しない時は、ゼンマイは緩んだ状態にしておきます。巻き上げたまま保管すると、バネが戻らなくなってしまいます。
□ 2-4 演奏の質を上げる…付加装置

 付加装置、といってもそんなに多くあるものではありません。ここでは、曲の変更のためのシリンダーの送り装置と、シリンダーの回転を一定に保つ装置について、書いてみます。

 1本のシリンダーに多数の曲が入っているものの場合、シリンダーが1回転するごとにシリンダーを少しずらして、隣の列のピンで弦をはじくようにしなくてはなりません。このずらし、をいかに実現するかが問題です。
 アンティークでも最近製作されたムーブメントでも原理は同じようです。例として、1本のシリンダーで3曲演奏できるもので説明します(文章で説明するのが極めて難しいのですが…)。
 ゼンマイからの動力を伝える歯車(シリンダーと同一の軸で回転する)が1曲の終わりの位置に近づきます。この歯車のシリンダー側の表面には、3本の爪が生えた円形の輪が1つ、歯車の軸からずれた場所に付いています。1曲の終わりに近づくと、台座から生えた棒が、この輪に生えた爪に引っかかります。輪はその中心を軸として自由に回転するようになっており、台座からの棒に引っかかって1/3回転します。歯車の面からは、輪の上面までの高さが3段階に変化しており、シリンダーからは細い棒が出ていて、その棒がこの上面を押し付けています。
 最初の曲が終わって、輪が1/3回転すると、輪の高さが少し高くなってシリンダーが1/3ピッチずれ、2曲目が演奏されます。2曲目が終わると、さらに輪が1/3回転してシリンダーがさらに1/3ピッチずれ、3曲目が演奏されます。3曲目が終わると、さらに輪が1/3回転して輪の上面の高さが1曲目の高さに戻り、1曲目が演奏されます。
 非常に面白いからくりですが、シリンダーのずれはわずかであるため、よく見ていないと分かりません。この方式の欠点は、シリンダーがシフトしながらそれ自身回転しますので、曲と曲の間に無音部分を置かないといけない、ということです。1つの長い曲を、3分割して収録したシリンダー(このようなものを「3パート」と呼んでいます)では、ちょうど曲想と曲想の間にこの無音部分がくるようにしないと、違和感が出てしまいます。そうなると、編曲もからんできます。この問題があるため、シリンダーの移動が連続的になるように工夫したものもあったようですが、機構が複雑になるためか、残らなかったようです。

 もうひとつは、定速装置です。ゼンマイは巻き上げたばかりの時と緩んできた時とで、出す力が異なるため、回転数に応じてブレーキをかけたり緩めたりしないと、最初が速すぎて聞きづらいものになってしまいます。
 ポイントは、高速な時に強く、低速な時は緩く効くようなブレーキがあればいいわけです。空気抵抗がまさにこのような用途には適しています。そこで、開発者は羽根車を使ったのです。何100万円もするアンティークから、100円ショップで売られているオルゴールにまで付いていて、それぞれ効果は違いますが、働きは同じです。
 複雑なものでは、羽根車の羽根が、可動式になっていて、高速回転しようとすると遠心力によって羽根が開き、空気抵抗が増大するようになり、低速になってくると羽根がしぼんで抵抗が減る、という機構を備えています。私の持っているものはそこまで複雑ではなく、羽根の形状は固定されています。
 物の本によると、この機構がないと、ゼンマイを巻き上げた状態から演奏を始めた途端に、ピンが折れるほどシリンダーが高速に回転するほどになる、とのことです。100年以上前だからといって、メカ技術が未発達だった、などということはないのです。
□ 2-5 音を大きく響かせる…響板とボックス

 先にも書いたように、響板とボックスはムーブメントの振動を効率よく空気の振動に変換する、という役割を果たします。(高周波の)電気信号はそのままでは電波として飛びませんが、アンテナという空間とのインタフェースを付けてやることで、効率よく空間に広がってゆくのと同じです。
 物の本には、ボックスや共鳴箱には「ムーブメントで出た音を増幅する働きがある」と書かれているものがありますが、箱はただの箱ですからいわゆる電気信号で言う「増幅」とは違います。音の元となる振動のエネルギーはムーブメントから供給されるのみで、箱はエネルギーを加えることはありません。技術的に細かいことを言うとこうなりますが、ムーブメントを木の板や箱にくっつけただけで、音が格段に大きくなるので、「増幅された」と考えるのも無理はありません。
 要するに、箱がないときはムーブメントの振動のエネルギーが、ムーブメント自身の中に熱となって消えていってしまっていたものを、箱を付けることで、効率よく空気の振動のエネルギー(=音)に変換できるようになった、ということです。

 樹種(木の種類)だけにとどまらず、板の「目」や乾燥具合(吸湿度)によって音が違うようです。最も大きな要因は樹種だと思いますが、その他の要因の違いについては、聞き分ける耳を持っていません。
 私の持っているボックスの中では、ウオールナット(くるみ)やケヤキといった木は比較的硬いものと、メープル(かえで)のような柔らかい物があります。前者のボックスに入れたムーブメントは、明瞭で力強い音がします。後者は、マイルドで優しい音がします。ボックスから特注で作るなら、曲の雰囲気に合わせて樹種を選ぶと良いでしょう。聞き比べはできませんから、(私がここに書いたことより)製作者の意見を聞いた方が良いでしょう。
 ボックスだけでなく、響板も重要です。何しろ、直接ムーブメントを載せる板ですから。先に書いたメープルのボックスには、スプルースの響板が使われていますが、メープルのボックスと絶妙な組合せだと思います。(これらのボックスの製作依頼先はこちらです。)

 ちょっと技術的(&好みの問題)な話になりますが、響板やボックスはそのサイズが大きくなるほど、低音まで豊かに響きます。「固有振動数」というやつが低くなるからですが、この辺は私も専門ではないので、深入りするのは避けましょう(ボロが出る…)。
 アンティークの大型なディスクオルゴールでは、人の背丈より高いサイズのボックス(実は下半分はディスク入れになっていたりするので実質的には上半分)の音を聞いたことのある方は、「オルゴール」という言葉のイメージからは想像できない、低音まで伸びた、音量のある音色に驚かれたかと思います。
 一般に、ディスクよりは小さなボックスのシリンダータイプでは、低音が控えめになってしまいます。私の持っているものでも、ボックスの幅は30cm程度で、そのままでもかなり響きはいいのですが、どうしても出ているはずの低音が、か細くなってしまう感じがしていました。
 そこで、「共鳴箱」という外付けの箱を作り、オルゴールの本体の共鳴と共鳴箱の振動を合わせると、聞こえる音が周波数的にフラット、かつ大きくなる効果が望める、というわけで、共鳴箱の製作に挑戦してみました。これは共鳴箱の製作編に書いています。