目次
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 ■ 共鳴箱を科学?編
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共鳴箱を科学?編 タイトル
Counter orgel_kyome2
 ここでは、「共鳴箱の製作」編で製作した3種類の共鳴箱の違いによる響きの違いが、どこから来るのかを調べてみます。調べたのに使ったのは、「インパルス応答」というちょっと(理論としては)難しい手法ですが、要するにスイカや電車の車輪をたたいて具合を調べるあれです。これを比較的簡単な道具で調べる方法を思いついたので、やってみました。
 ここで行なっている内容は、本当の意味で「科学的」とは言えません。(難しく言うと)現象論的に、「こういう測定をして、こういう傾向が出る共鳴箱は、こんな音がする」と述べているだけです。なので、ここでの結果から、想いの音を出せる共鳴箱を作ることは、残念ながらできないでしょう。
 「たかが共鳴箱一つに、半分マジになってここまでやるかぁ?」的な目で見て下さい。

「共鳴箱を科学?編」の目次

1 音の違いを探るには
  □ 1-1 ボックスと共鳴箱のはたらき
  □ 1-2 共鳴箱の違いによる音の違いはどこから?
  □ 1-3 波のスペクトルとは何か(予備知識)
  □ 1-4 たたいて調べるインパルス応答
2 実験準備…器具は手作り
  □ 2-1 大まかな実験方法を決めよう
  □ 2-2 「ジャンプ台」の製作
  □ 2-3 実験の詳細セットアップ
3 実験結果と考察
  □ 3-1 実験内容と取込んだデータの解析
  □ 3-2 音の波形の測定結果(時間応答解析)
  □ 3-3 スペクトルの測定結果(周波数応答解析)
  □ 3-4 スペクトルの時間変化の測定結果
  □ 3-5 考察T 共鳴箱の共振と音の関係
  □ 3-6 考察U 共鳴箱の構造・材質と音の関係

音の違いを探るには
□ 1-1 ボックスと共鳴箱のはたらき

 「共鳴箱の製作」編では2台の共鳴箱を試作(試作#1、試作#2)し、1台を木工のプロに製作(製品#1)していただきました。これらにオルゴールを載せて聞いてみると、それぞれ全く異なった個性の音がします。録音からでは、その違いはあまりはっきりとは分かりませんが、実際に耳で聞いてみると違いが分かります。
 それらを(難しいですが)改めて文章にまとめてみると、
  • 試作#1
     寸法は、D300×W480×H118mm。材料はパイン(松)集成材で板厚は9mm。低音が強調される傾向が他よりも強い。音のバランスとしては少しアンバランス。

  • 試作#2
     寸法は、D300×W480×H136mm。材料はパイン(松)集成材で板厚は18mm。少し唸りのような成分が含まれるが、音のバランスとしては試作#1よりも聞きやすい。

  • 製品#1
     寸法は、D300×W450×H140(足は除く)mm。材料はウオールナットのムク材で板厚は15mm。3台の中では、低音の伸びと音の素直さともに最良の結果。唸りや共振は聞かれない。
というようになります。
これまで製作したものとの比較
共鳴箱の製作編 Fig. 3-9(再掲)

下から 試作#1・試作#2・製品#1

 聴感上、試作#1<試作#2<製品#1となります。試作#1と試作#2はほぼ板厚だけが異なり、試作#2と製品#1は(大きさが若干違うことを除けば)材料だけが違います。それでは、この音の違いはどこから来るのでしょうか?
 「板厚が違うから」とか、「材料が違うから」という答えではどうも納得しかねる私は、更なる「なぜ?」に挑んでみたくなってしまいました。
 さて、それを探る前に、共鳴箱とオルゴールのボックス本体の働きについて、ちょっと考えることにします。共鳴箱にオルゴールを載せた状態を考えて下さい。その状態をFig. 1-1に示します。(この図は物理的には一部インチキを含みます。)
 まず、ピンが櫛歯を弾くと、ムーブメントが振動します。その振動が台座からボックスに伝わって、ボックスが空気を振動させます。ここではじめて、櫛歯の振動が人間の耳に聞こえる空気の振動(=音)に変換されたことになります。
 一方、ボックスの振動のエネルギーの一部は、ボックスの足から共鳴箱に伝わって、共鳴箱を機械的に振動させます。共鳴箱もボックスと同様、機械的振動を空気の振動に変換します。
 つまり、ボックスも共鳴箱も、機械的振動を空気の振動に変換する、という基本的な機能を担っているところに違いはありません。
 では逆に、何が違うのでしょうか? 共鳴箱を使うと音が大きく、豊かになるのはなぜでしょうか?
音の出る原理図
Fig. 1-1

音の出る原理図(一部インチキ)

 簡単に言ってしまえば、オルゴール本体のボックスは、その大きさが(共鳴箱に比べて)小さいので、波長が短い高音部が効率的に音に変換されますが、共鳴箱は大きいので、波長が長い低音部まで、音に変換される、と考えています。箱が小さいと、低音の櫛歯は一生懸命?振動しているのですが、ボックスが効率よく空気の振動に変換してくれないので、我々には小さな音としてしか聞こえない、という見方もできます。
 例えば、同じオルゴールでもアンティークのディスクタイプで、ホールに置かれていたような大きなものですと、その全体が共鳴箱なので、驚くほど低音まで豊かに鳴ります。また、シリンダータイプでも大型のものは、単体でかなり低音まで大きな音が出ます。

[この囲みの中は、さらに「どういう意味?」を知りたい方向けです。]
 両者の物理的な大きさが違うので、機械的振動を音波に変換できる周波数帯(=音の高さ)や効率が違うためと考えます。元が無線人間のため、アンテナとの対比で申し訳ないですが、ボックスや共鳴箱と音波の波長のスケールを考えてみます。アンテナも、電気的な振動電流を電波という空間の振動に変換するものなので、類似が利くと考えます。アンテナは、その長さが電波の波長と同程度以上で、効率が高くなります。
 オルゴールから出る音は、様々な周波数の成分からなっていますが、主なものは数100〜数kHz以下です。空気中での音速は常温では約343[m/s]ですので、例えば300[Hz]〜3[kHz]とすると、この領域では、波長は大雑把に0.1〜1[m]となります。もちろん低い音の方が、波長は長くなります。
 この長さに対して、ボックスのサイズ(対角の長さ)は20[cm]前後、共鳴箱のそれは今回のもので50[cm]前後になりますから、高音に対してはボックスも共鳴箱も十分な長さを持ちます。しかし、低音に対しては共鳴箱ならそこそこ足りていますが、ボックスのサイズでは不足気味になると考えられます。
 正確には、ボックスや共鳴箱の木材の中では、音波の伝播速度が数倍になるので、この理屈が通るかどうかはわかりません。ただ、定性的には波長と箱のサイズの対比はこんな理屈でいいと思っています。
 音響工学の専門書でも読んで勉強すればいいのでしょうが…。ここに書いてあることは全部、素人の私の頭の中でのことなので、間違いがあるかもしれません。
□ 1-2 共鳴箱の違いによる音の違いはどこから?

 それでは、共鳴箱の材質や構造を変えると、音も変わってしまうのはなぜなのでしょうか? 上の考え方からすると、「材質や構造が変わると、機械的な振動を空気の振動(=音)に変える効率そのものや、音の高さによってその効率が違ってくる」のではないか、ということが想像できます。
スイカも車輪も叩いてみれば
Fig. 1-2

スイカも車輪も叩いてみれば

 さて、この違いをもっと詳しく調べる方法はないでしょうか?
 音を利用してこのような違いを見分けるための身近な例では、スイカを買うとき、中身が詰まっているかを調べるのに叩いてみたり、車庫で点検中の電車の車輪をハンマーで叩いて調べているなどの例があります。材質や構造が違うと、返ってくる音が違うので、中身が詰まっているかスカスカか、車輪に亀裂があるかないか、などの見分けがつけられるわけです。もちろん、素人にはできないものもありますが。
 ならば、共鳴箱も叩いてみたらどうでしょう? 材質や構造の違いにより、差が出るのではないか、と想像できます(Fig. 1-2)。
 ここで、「なんだか議論がおかしいぞ」と思われた方もおられるかも知れません。

 共鳴箱をたたいて調べるのは、共鳴箱がどんな構造の時にどんな反応を返すかが分かるだけであって、オルゴールを載せた時にどんな音が出るかとは別問題なのではないか

その通りの疑問です。私もそう思います。ここが、オーディオ屋さんが嫌う「スペック(数字)に頼る」ことと関係してくるので、私も避けたいのですが。
 まず、一番調べたいことは、

 同じオルゴールを異なった共鳴箱で鳴らすとき、聞こえる音が違うのは何故か?

ということです。これは、同じオーケストラの演奏が、ホールが違うと違う演奏に聞こえるのが何故か、という疑問と同じです。次に、

 その違いが、共鳴箱の材質や構造の違いに起因しているのではないか?

という(言ってみれば)当たり前の理屈で、

 共鳴箱をたたいて調べれば、違いが明らかになるだろう

というわけです。ですから、共鳴箱をたたいて調べることは、その材質や構造の差を調べることはできるのですが、オルゴールを載せて、そこからどんな響きがするのかは、直接的には分かりません。この方法では、機械的に測定された「ある数値」が出てくるだけであって、実際の聴感はその数値から想像するしかないのです。
 でも実は、この「たたいて出てくる『ある数値』」が、コンサートホールの「でき具合」を評価するのにも使われている、「インパルス応答」というもので、理論的には確立されていて、音響工学の方面ではそこそこ信用できるものであるのです。
 1-3以降では、今回使った「インパルス応答」とは何かについて、簡単に書いてみます。
□ 1-3 波のスペクトルとは何か(予備知識)

 さて、ここで音や光など自然界に物理現象としてある、「波」の性質を簡単に復習しておきましょう。ここでは分かりやすく、波一般ではなく「音」を例に話を進めます。
 波の性質を記述するには、「周波数=音の高さ」と「振幅=音の大きさ」と「位相=音の時間的ズレ?」という3要素があればいいとされています。3番目の「位相」は、オーディオマニアの方なら、音像の「定位」に関係するので、大変神経質になる性質ではありますが、人間の感覚として他の2つに比べて感じ方が鈍いので、ちょっと脇に置いておきます。ここでは、音は、周波数と振幅で表せる、としてみよう、ということです。(もちろん、電気信号を扱う通信の世界では位相は大変に重要な要素で、これを抜きに通信は語れません。)
 もうひとつのポイントは、

 いかに複雑な波でも、正弦波という最もシンプルな波の足し合わせで表せる

という「法則」です。「正弦波」というのは、音の大きさ(振幅)も高さ(周波数)も常に一定の波で、波の形が三角関数であるサインやコサインの式で表されるものです。家庭に来ている商用電源は(多少歪んではいますが)、この正弦波です。
 また、「足し合わせ」というのは周波数と振幅の異なる大変多くの正弦波をどんどん加えてゆく、ということです。現実の世界にあるどんな複雑な波でも、振幅と周波数が違う正弦波という単純な要素からなっている、ということ自体、なかなか感覚的には信じがたいことです。
 これは物理法則なので、ここでは「そうなのか」と思っていただくほかはありません。光だってプリズムに当てればいろいろな色に分解できるように、音も同じ波なので、それができる、ということです。
 このように、電気でも光でも音でも、はたまた地震の波でも、波をいろいろな周波数の正弦波に分解し、ある周波数の正弦波がどの程度の強さなのか解析することを、スペクトル分析といいます。
様々な波形とスペクトル
Fig. 1-3

様々な波形とスペクトル

 そして、スペクトル分析に使う数学の道具を、フーリエ変換といいます(フーリエは人名)。また、横軸を周波数に取って、縦軸を正弦波の振幅(強さ)で示したグラフを、スペクトルといいます。

 正確に議論するには、分析しようとする信号(=音)が、一定の周期を持った繰り返し信号である必要がありますが、我々が聞く音は単純な繰返しばかりとは限りません。このような場合は、無限に長い周期を持った信号として解析するか、一部を切り出してその繰り返しとして解析します。
 また、スペクトルに分解したデータから、元の波形を合成することもできますが、これをやるためには先程述べた「位相」が必須になります。
 これらの詳しい話は、物理数学の専門書に譲ります。

 長くなりましたが、ここまでが予備知識です。もしここまで読んで「ワケワカんねー」状態でしたら、実験結果と考察だけをご覧下さい。ここで理屈を理解するよりも、聞いてみた音の違いの方がわかる方が重要ですから。今回の解析では、「ふーーん、理屈はなんだかわかんないけど、やっぱ違うんだ」と数値でみても、はっきり分かる結果が出ています。
□ 1-4 たたいて調べるインパルス応答

 物理の世界でインパルス、というのは瞬間的な衝撃や刺激のことです。パルスの前や後は全くの静穏で、突如加わるのがインパルスの物理モデルです。前の1-3で、「インパルス応答とはたたいて出てくる音のことだ」と書きました。音の世界ではドラムやピアノなど打楽器の音も、はたまたお寺の梵鐘の響きも、皆インパルス応答です。音だけでなく、物理的な物性測定では、光のパルス(短パルスレーザ)なども用いられています。この場合、出てくるのは光に限らず、音や振動など様々です。
共鳴箱とインパルス応答
Fig. 1-4

共鳴箱とインパルス応答

 通常我々は、共鳴箱にオルゴールを載せて聞きます。オルゴールからはいろんな周波数でいろいろな振幅の(機械的)振動が共鳴箱に伝わり、空気の振動に変換されて音として聞こえます。一方、共鳴箱を手でたたいてみると、「ゴン」とか「トン」と音がします。
 つまり、共鳴箱はオルゴールや手から受ける機械的な振動を「入力」として、空気の振動である音を「出力」する「変換器」の一種である、と言えます。オーディオアンプ(入力出力ともに電気)やスピーカー(入力は電気、出力は音)もそうですし、自動販売機(入力はお金、出力は商品)や自動翻訳機(入力出力ともに言語)も広い意味では変換器です。
 ここでインパルス応答の解析対象にするのは、入力や出力が「波」で定義できるものに限ることにします。ですから、自動販売機や自動翻訳機は含みません。
 それでは、インパルス応答をどのように解析すると、何が分かるものなのでしょうか? 私は、以下のように考えています。
  • 音の波形(時間変化)を測る
    音の大きさが、インパルスが与えられた瞬間から時間とともにどのように変化(減衰)していくか、を測定します。これにより、オルゴールから振動が加えられて、どの程度の時間響き(これを残響と言います)が残るかがわかります。コンサートホールのインパルス応答評価では、この残響が重要な意味を持ちます。共鳴箱でも残響がありすぎると、ワンワンと鳴るような感じで耳障りになり、全くなければ音の広がりや奥行き感がなくなってしまいます。

  • 音のスペクトルを分析する
    共鳴箱をたたくと「コン」とか「ボン」という音がしますが、この音の性質が分かります。つまり、どんな周波数の音が出ているか、特に強く出ている周波数(共振)はあるか、が分かります。共振周波数は複数ある可能性があります。あまり鋭い共振があると、オルゴールを載せた時、共振周波数に近い音だけが強調されるため、ボックス単体で聞く時より不自然な音になってしまいます。構造的に「箱」である以上、ある程度の共振は避けられないですが、それを構造や材質がどうカバーしているかも分かるかもしれません。

  • スペクトルの時間変化を測定する
    上記2つの組合せです。ある周波数のスペクトルの成分(音の大きさ)が、時間とともにどのように減衰していくか、を測定します。定性的に予想すると、高い周波数成分ほど素早く減衰してしまうはずです。また、共振している成分は長く残るはずです。

 上の分析方法を難しい言葉で言うと、時間変化を測るもの(一番目)を時間領域の分析、周波数を測るもの(二番目)を周波数領域の分析、といいます。三番目は両方を組み合わせたものです。
 コンサートホールからの類推で言うと、共鳴箱にも残響が適度にあり、共振は理想的にはない方がよく、周波数特性はフラットな方が良い、ということになります。でもこれはあくまで机上の理屈です。実際には、数値と聴感がよく合わないこともあるそうです。
 周波数特性については、オルゴール本体のボックスから出る高音成分もありますので、全体としてフラットになるためには、やはり低音の伸びが必要になると考えられます。

インパルス応答の分析方法
Fig. 1-5

インパルス応答の分析方法

 さらに理屈をこねると、インパルスというのは、位相がピタリと揃った、無限に広帯域な周波数成分を持った正弦波の重ね合わせです。これを、ある装置に入れて出力のスペクトルや時間波形を観測する、ということは、その装置が周波数全域に渡ってどう応答するか(いわゆる周波数特性=f特)や、時間遅れ(位相特性)が一気に調べられる、ということです。
 これは大変に有用な性質なので、工学の世界では中身がわからないものを調べなければならない時は、ほとんどこのインパルス応答を使います。
 私たちは、スイカの中身を調べるのに、無意識にこんな高度な理論に裏付けられた物理工学的手法を使っているんですね。

実験準備…器具は手作り
□ 2-1 大まかな実験方法を決めよう

 いよいよ実験の準備を始めます。まず、物を準備しますが、その前に実験の方法を考えなければ、何が必要か決まりません。なるべく、家にある物を使って、安く、簡単にできる方法を考えます。
  • 共鳴箱にインパルスを与える
    与え方としては手でたたいてもプラスチックハンマーでたたいても何でもいいですが、なるべく理想的なインパルスに近づけるよう、両者が触れ合っている時間が短時間に終わる方法を探します。結果のバラツキを抑えるため、再現性が重要です。

  • 音を収録する
     共鳴箱から出る「トン」という音を記録します。PCのサウンドカードに付いている録音機能を使ってもいいですが、今回はこれまで録音に使ってきた系をそのまま使うことを考えます。

  • 波形を解析する
     録音データをPCに取り込み、上に書いた「スペクトル分析」を行ないます。フーリエ変換には、(後に述べる)FFTというアルゴリズムを使います。オーディオ屋さん向けにたくさんのフリー&シェアウエアが出ています。簡単なものは、買ったサウンドカードのおまけにも付いていました。

インパルス応答の測定・解析方法
Fig. 2-1

インパルス応答の測定・解析方法

 FFTというのは、Fast Fourier Tranform(高速フーリエ変換)の略で、早い話が、対象となる波形を高速でスペクトル分析するものです。カーオーディオなどでグラフィックイコライザを積んだものがありますが、あれも(周波数分解能は荒いですが)同じアルゴリズムで作られています。
 取り込んだ音のデータを、このアルゴリズムで処理すると、あっという間に周波数に分解してくれます。かなり高精度な解析が可能なので、途中のマイクアンプのノイズなども拾ってしまう可能性がありますが、問題になったらそれから考えましょう。
 また、長く続く楽器の音と違って、インパルス応答は数100msで終わってしまいますから、周波数を細かく分析するにはそれなりの工夫が必要ですが、ここでは述べません。
 マイクやマイクアンプ、FFTソフトなどはすでにこれまで使ってきたものがあったり、フリーウェアがあったりで、目処はつきました。しかし、肝心の共鳴箱にインパルスを与える装置が新たに必要です。
 3台の共鳴箱の測定条件は、再現性を確保した上で結果を比較しないと、差がバラツキに埋もれてしまう可能性があります。わざわざ「装置」を作る、というのは、手でプラスチックハンマーを落としたりするのでは、人間ほどいい加減なものはないので、結果がばらついてしまうだろう、と予想してのことです。
 ならば…と思案して思いついたのがFig. 2-2のような装置です。坂になったレールの上を、硬質ゴムでできたスーパーボールが転がり落ちて、共鳴箱の上で弾み、この時に音が出る、という簡単なものです。
 これなら、実に原始的な装置ながら、手で落としたりするより、ずっと再現性よくインパルスを与えられます。これを思いついた時は、我ながらおバカな装置だとは思いましたが、反面、結構いけそうだと自画自賛しました。実験装置は簡単なものに限ります。
 スーパーボールは子供のオモチャとして100円ショップで手に入りますし、木の材料はこれまでたまっていた工作の端材を適当に利用すれば、そのまま使えそうでした。
「ジャンプ台」の構想図
Fig. 2-2

「ジャンプ台」の構想図

 これで実験の方法が決まりました。実験としては簡単ですが、面白い結果が出そうな気がしてきました。いよいよ実際の実験系のセットアップに入ります。
□ 2-2 「ジャンプ台」の製作

 まず、Fig. 2-2のような「ジャンプ台」の製作から始めます。材料は前の2-1でも書いたように、あり合わせの端材が使えましたので、それらを組み合わせます。
「ジャンプ台」の全体
Fig. 2-3

ジャンプ台の全体

ジャンプ台の背面側
Fig. 2-4

ジャンプ台の背面側

 本当は、いろいろな高さからボールを落として、どの程度の大きさの音が出るか、など予備実験しながら決めるのが妥当でしょうが、今回は、「遊びの一種」と割り切って、そういう面倒なことは一切なし、です。
 ですから、写真をよく見ると、板材の幅や組み付けなどがバラバラ、ズレまくりですが、端材の上、切り口の直角が出ていないので、仕方ありません。ボールが落ちる再現性に関わらなければ、何でもあり、です。坂の傾斜も、現物合わせで「こんなもんだろ」で作りましたので、図面はありません。
滑走路(レール)の拡大
Fig. 2-5

滑走路(レール)の拡大

実験に使ったスーパーボール
Fig. 2-6

実験に使ったスーパーボール

 板厚は試作の#2号機を製作した時の端材が多いようで、ほとんどが18mmでした。これだけ厚みがあれば、そこそこ重量もありますので、スーパーボールが転がったぐらいでガタガタすることはありません。
 40分ほどで出来上がってしまいました。
 ひとつだけ考えておかなければいけないことに(出来上がってから…)気付きました。
 手元の3種類の共鳴箱は、その高さが微妙に違います。条件を一定にするためには、高さくらいは一定にしておかないといけないと考えましたが、高さの可変機構などはもちろんありません。プリンタ用紙でも敷いて、調節することにします。
 実験に使ったスーパーボールは、近くの100円ショップで買ったもので、直径約30mm、重さが約15gのものです。
□ 2-3 実験の詳細セットアップ

 実験方法が決まりましたので、実際にセットアップに入ります。「ジャンプ台」以外の使用する機材は、ほとんど今まで録音に使用してきたものと同じです。
実験セットアップ(使用機材等)
Fig. 2-7

実験セットアップ(使用機材等)

 最も心配なのは、オルゴールの録音用に固定ゲインとしてあるマイクアンプです。オルゴールの音は小さいので、ゲインをかなり大きくしてあります。共鳴箱をたたくような大きなレベルが入ると、飽和したり信号が歪んだりしてしまう恐れがあります。
 これは、マイクアンプ自体から発生するので、DATデッキの入力レベルを絞っても解決にはなりません。
 試しに何度か落として録音して波形を見てみたら、ものの見事に頭が切れて歪んでいました。幸い、マイク自体に過大入力にならないようなアッテネータスイッチ(PADスイッチ)が付いています。これを-10dBにセットして、マイクの感度を下げてみました。
 すると、今度は全く頭も切れず、歪まず録音できることが分かりました。
 次は、ジャンプ台と共鳴箱の位置関係の調整です。
 まず、高さ方向は、共鳴箱の天板面からジャンプ台の放出点?までの高さを248mmとしました。この数字に特別な意味があるわけではなく、作ったジャンプ台がそいういう高さに出来ていたまでです。
 次に、水平方向の位置関係は考慮が必要です。というのは、共鳴箱のどこにオルゴールを置くかで、音がかなり変わってきます。つまり、共鳴箱にとって、振動を受ける点がどこであるかによって、結果に差が出てくる可能性があります。
実際のセットアップ
Fig. 2-8

実際のセットアップ

 この形状のものに振動を与えて出てくる音が最も大きくなるのは、左右は真中で、前後はちょっと前寄りではないかと考えます。なので、今回は、いつもオルゴールを置いている位置でオルゴール底面の中心位置を参考に、Fig. 2-9のように設定してみました。
 ここで、点で指定できず半径5cmもの大きな円内を指定せざるを得ないのは、スーパーボールが「真球」でないので、レールから離れる時に、微妙に飛び出す方向がズレるためです。何度も落としてみて、大体この円内に入るというふうに決めています。
落下点の再現性確保
Fig. 2-9

落下点の再現性確保

ジャンプ台の高さ調整
Fig. 2-10

ジャンプ台の高さ調整

 多少、解析結果にばらつきが出ることが予想されますので、何度も落として平均化処理することにします。
 それから、わざわざステレオで収録していますが、これはカノンの修理後の録音後にそのままのセットアップで実験を行なったためで、ステレオでなければならないわけではありません。過渡応答・周波数解析を行なう時は、両chを平均したデータで行ないます。

実験結果と考察
□ 3-1 実験内容と取込んだデータの解析方法

 ここでは解析結果を議論する前に、DATに録音した音響データをどのように解析したか、をご説明します。
 まず、録音したデータは、サウンドカードE-MU 0404に付属してきた、取込み&加工ソフトWave Lab Lite 2.5で取込みます。サンプリングレートと分解能は、それぞれ録音時のままの48kHz・16bitです(E-MU 0404と付属のソフトについては、ここにAV Watchの記事あり)。ファイルの保存はwav形式で行ないます。
 録音は走らせたまま、何度も何度もボールを転がして録音しているので、長〜い全体のファイルから、1回ずつの音を切り出して個別のwavファイルにします。
 グラフにする時に、コメントや軸の数値を自由にいじりたいのでExcellを使いたいと思います。Excelはwavファイルは読めないので、wav2csvというフリーウェアを使って、csv形式に変換しておきます。
データ解析の流れ
Fig. 3-1

データ解析の流れ

 以上が下準備です。
 時間波形の解析は以下のように行ないます。時間波形は、ボールが共鳴箱上面に落ちる位置によって、多少波形が違うようです。多数の波形を平均化してノイズを減らすためには、各々の音の始まりの時刻をきちっと特定して、位相をそろえる必要があります。これが難しい割に、副作用も多い(波形がなまる)ので、そのまま表示させることにします。
 スペクトルの解析では、ひとつひとつのwavファイルを、RH1FFTというスグレモノのシェアウェア(ホームページはここ)でFFT解析します。このソフトのどこがスグレモノかというと、
  • シンプル&高機能
    録音しながらFFT解析できたり、一部送金しないと使えませんが、FFTの窓関数まで変更できたりと、高度で多彩な機能を持っています。それでいて、普通に使うときには操作がシンプルで、分かりやすいのです。窓関数を選べるあたり、作者の方の知識の深さが出ていると思います。

  • FFTの結果が.csv形式で出力できる
    これは(私にとっては)ポイント高いです。普通の数値計算ソフトは、バイナリかcsvは読めますが、wavは読めません。このソフト自体のグラフもきれいだとは思いますが、今回はWebページ用にメリハリのあるグラフが必要だったためこの機能を使いました。

 今回は、試用モードのみで解析してみましたが、近いうちに送金登録するので、これらのパラメータをいじってみたいと思います。
 スペクトルの解析では、1回のスペクトルではノイズが多い可能性があるので、様子を見ながら複数回のスペクトルを重ねて、レベルの低い部分のノイズを減らします。平均の回数は、やってみてから決めることにします。
 さらに、Wave Lab Lite 2.5には、スペクトルの時間変化を見る機能も、細かい設定は出来ないものの、付いていますので、これを使って、周波数成分が時間とともにどのように変化するか、を見てみることにします。(ちなみにこの機能は、RH1FFTにも「ソノグラフ」という名前で実現されています。)
□ 3-2 音の波形の測定結果(時間応答解析)

 下記に、3つの共鳴箱それぞれのインパルス応答を録音したものを挙げます。かなり音が違います。まずはご自分の耳でお確かめ下さい。
共鳴箱
試作#1
共鳴箱
試作#2
共鳴箱
製品#1
IPR_Box1.mp3
IPR_Box1_256k.mp3

約94kB
IPR_Box2_256k.mp3
IPR_Box2_256k.mp3

約95kB
IPR_Box_256k.mp3
IPR_Box3_256k.mp3

約94kB

 音が大きく違うのがお分かりかと思います。
 試作#1は「ドゥ〜ン」という感じで後まで響きが残るような音、試作#2は「トン」と試作#1よりは少し軽い音でかつ後まであまり尾を引かず、さらに製品#1では、「コン」という高めの音で、後までほとんど響きません。
 これらを時間と共の音の波形がどうなるかを示したものが、Fig. 3-2〜4のグラフです。時間の原点は、ボールが共鳴箱に当った瞬間を波形から読んで決めています。(特徴的な部分だけが分かるよう、インパルスが加わる前100msと加わった後400msについて見ています。)
試作#1のインパルス応答時間波形
Fig. 3-2

試作#1のインパルス応答時間波形

試作#2のインパルス応答時間波形
Fig. 3-3

試作#2のインパルス応答時間波形

 これらを見比べると、皆同じような左に開いたラッパのようなエンベロープ(包絡線)ですが、耳で聞いた音が波形の違いとしても見えていることが分かります。
 例えば、音の響きです。響きの長さは、耳で聞くと、試作#1>試作#2>製品#1 の順でしたが、波形を見ても、やはりこの順に後の方まで波が残っていることが分かります。試作#1の波形は、グラフの終わりでも振動していますが、製品#1では振動は見えません。
 また、音の大きさも 試作#1>試作#2>製品#1 の順になっていることが分かります。
 分かりにくいですが、音の高さも何となく見えています。音の高さは波のピッチですから、細かい波の間隔に着目します。
製品#1のインパルス応答時間波形
Fig. 3-4

製品#1のインパルス応答時間波形

 音の高さは、スペクトル解析で詳細に解析しますので、ここではオマケ的に見ておきますが、波のピッチは、試作#1>試作#2>製品#1 の順になっている(試作#1が最もピッチが粗い)ことが分かります。
□ 3-3 スペクトルの測定結果(周波数応答解析)

 ここでは、いよい音の「成分」でもあるスペクトルの測定を行ないます。元のデータはFig. 3-2〜4と同様ですが、前の3-2と異なるのはFFTにかけることと、かけた結果を複数回足し合わせて平均を取ったものである、ということです。
 原理の話に少し戻ってしまいますが、FFTは長い時間に対して変換を行なうほど、周波数の分解能が高くなります。但し、今回のような瞬間的な波形(過渡応答といいます)の場合、あまり変換対象とする時間を長くすると、(ほとんどの時間が無音に近いため)平均的な音のパワーが下がってしまいます。
 今回は、変換時間を試行錯誤で1秒にしています。こうすると、周波数の分解能は1Hzとなります。また、24kHzまで出てくるはずのスペクトルのうち、1.5kHz以上の部分は示していませんが、隠しているわけではなくて、この部分にはほとんど周波数成分がなく、ノイズしかないためです。
 では、下に測定結果を示します。
試作#1のインパルス応答スペクトル
Fig. 3-5

試作#1のインパルス応答スペクトル

試作#2のインパルス応答スペクトル
Fig. 3-6

試作#2のインパルス応答スペクトル

 耳で聞いた、
「ドゥ〜ン」(試作#1)
「トン」(試作#2)
「コン」(製品#1)
の音は、こんな周波数の成分からなっていた、ということです。
 グラフの中のnnn Hzというのは、その周波数の音が周辺の音の中で、特に強く出ている(これを「ピークがある」といいます)、ということを示しています。このグラフをよく観察してみると、いろいろなことが分かります。
 まず、試作#1(Fig. 3-5)ですが、他のものに比べて、多くのピークがあります。特に低音の方では、山の形が大変シャープで高いです。112Hzなどは、針のようです。
製品#1のインパルス応答スペクトル
Fig. 3-7

製品#1のインパルス応答スペクトル

 書き忘れましたが、Fig. 3-5〜7は縦軸は対数をとっています。Fig. 3-2〜4はリニア(比例)ですが、このグラフは縦軸の一目盛りが10倍を示しています。従って、試作#1の112Hzのピークは、周囲のバックグラウンドレベルに比べて、1000倍近い振幅を持っていることになります。横軸はリニアです。

 次に、試作#2(Fig. 3-6)ですが、これもやはり低音の方に高いピークがあります。ただ、ピークの数は少なくなっていますし、心なしか山の形も裾が広がっています。
 試作#1,#2に共通するのは、どちらも低周波の成分が主要な部分を占める、ということです。これに対して、製品機#1(Fig. 3-7)はどうでしょうか?
 これはまた前の2つと全く違った様子を示しています。500Hzより低い部分の山はどれも前の2つよりも低く、幅も広がっています。また、山の数自体も少なくなっています。山の高さが低くなっているのは、残響が少なく、平均的な音のエネルギーが減っているためと考えられます。

 上記のことから、試作機はどれも低音の響きが大きく、製品機は試作機とは逆に、相対的に高音成分が強いということがわかります。耳で聞いた感覚と一致しますね。前述のように縦軸は対数を取っているので、一目盛違えば振幅は10倍の差があります。ですから、ピークの高さが一目盛しか違わなくても、他の周波数の高さが同じなら、着目している周波数の成分は1/10になったり10倍になったり、というわけで、結構な差になります。

 なお、低周波側に行くほどノイズレベルが上がってきているのは、マイクやマイクアンプに用いられている半導体素子の1/fノイズではないかと考えられます。
□ 3-4 スペクトルの時間変化の測定結果

 最後に、スペクトルに時間変化を調べておきます。
 前の3-3の解析では、1秒間の間の平均的な周波数成分を調べましたが、ここで調べるスペクトルの時間変化というのは、ある時刻(瞬間)におけるスペクトルの形です。とはいっても、FFTの原理として、瞬間のスペクトル、というものは定義できませんので、ごく短い時間についてのFFTを連続して繰り返して解析するものです。
 面倒な理屈はどうでもいいのですが、取込みソフトに、3D周波数解析という機能があって、この機能がまさにスペクトルの時間解析なので、これを試してみました。

 スクリーンショットで見づらいかもしれませんが、時間軸は奥から手前に向かう方向です。周波数軸は、左側から右側へ向いています。前と異なり、周波数軸は対数を取ってあります。縦軸は振幅で、これも同様、対数を取ってあります。
試作#1の応答スペクトル時間変化
Fig. 3-8

試作#1の応答スペクトル時間変化

試作#2の応答スペクトル時間変化
Fig. 3-9

試作#2の応答スペクトル時間変化

 まず、試作#1の結果(Fig. 3-8)です。高周波側の成分(497Hz,669Hz,777Hz,1014Hz)は100〜200ms程度でノイズレベルまで落ちていますが、低周波側の成分(特に112Hz,186Hz)は0.5〜1秒以上も残っています。これが「ドゥ〜ン」と響く低い音の正体だったわけです。
 ここで気をつけなければならないのは、前のFig. 3-5〜7は1秒内の平均スペクトルを示したものですが、ここでのものは瞬間のスペクトルなので、山の高さの比率が異なります。
 この112Hzの成分は、時間とともに一直線に減衰しています。
 縦軸は対数を取っているので、きれいな直線である、ということは、Fig. 3-2がきれいな(振幅が時間的にexp(-kt)に比例する)減衰振動であるということが言えます。
製品#1の応答スペクトル時間変化
Fig. 3-10

製品#1の応答スペクトル時間変化


 次に、試作#2(Fig. 3-9)です。最も低い成分である190Hz以外は、すぐに減衰してしまっています。そしてこの190Hzという成分も、試作#1の112Hzに比べて半分程度の時間で減衰していることがわかります。減衰の様子は、どの周波数成分もきれいな直線状です。

 最後に、製品#1(Fig. 3-10)です。どの周波数成分も(最低音の236Hzを含めて)200ms程度で減衰してしまっています。製品#1がほとんど残響を持たないで「コン」という感じの音なのはこのためでしょう。これまた他と同様、減衰の様子は、どの周波数成分もきれいな直線状です。
 また、これはどの共鳴箱にも共通の性質ですが、山のピークの周波数は時間とともに変化しません。これは、インパルス応答から対象物の性質を推測するときに重要な性質となります。(本当は、これが前提になっていないと、インパルス応答から共鳴箱の振る舞いを推測することができないので、本末転倒なのですが…。)
□ 3-5 考察T 共鳴箱の共振と音の関係
 ここまでの結果から、残響(時間波形解析)、共振の度合い(スペクトル解析)について、いい音のする共鳴箱に必要な条件を考えてみましょう。ここでの考えは、あくまでもインパルス応答のみから導き出されるもので、私独自のものなので、世の中のスピーカーボックスやコンサートホールの通説とは異なる考え方もあるかもしれませんが、それを恐れず書いてみます。
  • T 時間波形解析結果の考察
     コンサートホールやスピーカーボックスと異なり、共鳴箱は直方体の6面うち1面が開いた構造になっています。また、振動源が外部にあることも別の考え方をする必要があると思います。
     共鳴箱の残響は、音が内部で反射を繰り返して外に出てくる成分はほとんどなく、箱の共振によるものが主成分と考えます。(共振というのは、ある特定の周波数にスペクトルのピークを持つものです。共振については次項で述べます。)
     理由は、内部で反射を繰り返して出てくる音は、音速と箱のサイズの関係から、数msで減衰してしまうと考えられるからです。

  • U スペクトル解析結果の考察
     上記Tで、共振について簡単な説明をしましたが、オーディオマニアの方がスピーカーボックスやリスニングルームに「鳴き」がある、というものと同じです。日光の東照宮の「鳴き竜」のインパルス応答もそうです。但し、いずれの場合も場合は振動源も耳も「箱」の内部にあるという点が共鳴箱とは異なりますが、「箱」の中の空気が、ある特定の周波数の音で大きく振動する、という点では同じです。
     共振周波数は、箱の物理的形状と板の材質で決まります。共振は、共鳴箱が「箱」の形状を取る限りは多かれ少なかれ出てしまうものです。ただ、Fig.3-4-5の112Hzのピークのように、非常に高くて鋭い共振スペクトルを持つ共鳴箱で聴くと、オルゴールの振動のうち、その周波数に近い音が強調されて聞こえるため、不自然な音になります。こんな低い音はシリンダーオルゴールにはないと思いますが、試作#1にはこの他にも鋭い共振がありますし、試作#2にも低い周波数に鋭い共振があります。このため、低音の多い「No.44カノン」で顕著ですが、これらには低い方の音に、今ひとつすっきり感がないのだと思います。
     製品#1には、鋭い共振がほとんどありません(Fig.3-4-7)。また、共振周波数での振動は、すぐに減衰してしまいます(Fig.3-4-10)。つまり、製品#1では、共振の影響がほとんどないと考えられます。
 これらのことから、共鳴箱にとっては、共振は避けられないが、その周波数幅は鋭くない方がよく、また、すぐに減衰してしまうものであることが望まれる、と考えられます。
 つまり、共鳴箱はオルゴール本体からもらった振動を、共振という独自の特性を付加せず、素直に空気の振動に変換することが望ましい、というわけです。
□ 3-5 考察U 共鳴箱の構造・材質と音の関係
 「自分も共鳴箱を作ってみたい」「木工のプロに作ってもらいたい」と考える方がおられれば、知りたいのはここではないかと思います。
 ただ、残念ながら3台では事例が少なすぎて確固たることは申し上げられません。ここに書いたのは実験結果と、木組みによる音の違いを経験したことからの推測です。「考察」というにはおこがましいかもしれません。参考程度になさって下さい。
  • T 構造について
     くり抜きで作ることはないでしょうから、板を合わせる際の木組みは重要です。振動を箱全体に一様に伝えるためですが、共振を抑える効果もあると考えています。
     製作編にも書きましたが、ネジ止めの間隔があくと板材の反りにより接触面に空隙ができます。オルゴールから進んできた振動波は、この空隙から先にはほとんど伝わりませんから、音が出にくくなります。
     共鳴箱のサイズは、上に載せるオルゴールにも左右されるので、この寸法がいい、とは言いづらいですが、72または50弁程度であれば、今回製作したのと同程度でいいのではないかと思います。箱を大きくすれば共振周波数は下がりますが、板厚を厚くしなくてはなりません。
     板厚は、板の材質にもよりますが、今回の15mm程度でいいのではないかと思います。では、10mmでは、20mmではいけないのか? という疑問もあるかと思いますが、正直なところ、線は引けません。ただ、あまり厚いと、オルゴールのボックス本体から共鳴箱に振動が伝わりにくくなり、音が小さくなってしまうと考えています。

  • U 材質について
     試作では、パイン(松)の集成材を使いましたが、製品機ではウオールナットのムク板を使いました。製品機の方が共振が少なく、音が良かったわけですが、松よりもウオールナットの方が硬いので、「硬い方がいいのだろう」とお考えになるかと思います。確かに硬い方が、共振が起こりにくいとは思いますが、これも構造と同じで、あまり硬いとボックスと共鳴箱の接触面で反射が起こって振動が共鳴箱側に伝わらないため、効率が悪くなりそうです。
     熊野洞の熊野社長が話されていましたが、「黒檀などの非常に硬い材質でのボックスの注文があったときは、(ムーブメントから直接振動を受ける)響板は別の材質を使う。そうでないとうまく鳴ってくれない。」ということでした。多分、ボックスと共鳴箱も同じ関係だと思います。
     硬さと相関がありますが、あまり密度の高い(重い)木も使わない方が良いでしょう。
 「うちにあるオルゴールも、大きな音で、いい音で聴きたい」と思われた方は、(自分で言うのも変ですが)今まで書いたような、「解析」の結果などあまり気にせず、オリジナルな材料や構造で、製作してみて下さい。一発で満足行くものが作れればハッピーですし、私のように納得いかなければ何度も試行錯誤するのも楽しいものです。